今回はウォルト・ディズニー・ピクチャーズ制作の実写+アニメ映画シリーズ作品を一つ語っていきたいと思います。
世間的にはウォルト・ディズニーの始まりはアニメーションというイメージが強いと思いますが、実は彼が最初に本格的に世にでたのは【アリス・コメディ】という実写+アニメーションのコメディシリーズからでした。
この手法は実は「ウォルトが本当にやりたかった事」の一つであると言われていて、その後も「メリー・ポピンズ」や「魔法にかけられて」等、節目節目でディズニーを語るうえでは外せない名作が生まれている真の【ディズニーの得意分野】とも言えるジャンル。
今回語るこの作品も、後のディズニー作品、いや、アニメ業界映画業界全体に多大なる影響を与えた正に【革命】とも言える非常に重要な一本となりました。
(※当ブログは基本ネタバレありです。ご了承下さい。)
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ロジャー・ラビット
(原題:Who Framed Roger Rabbit)
1988年
監督
ロバート・ゼメキス
データ
ディズニースタジオの部門の1つタッチストーン・ピクチャーズとスティーブン・スピルバーグのアンブリン・エンターテインメントが共同制作した、初の全編実写+アニメーションによる長編映画。
監督は「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズで知られるロバート・ゼメキス。
アニメーション監督には1977年の短編「クリスマスキャロル」でアカデミー賞を受賞した事でも知られるリチャード・ウィリアムス。
脚本は「シュレック3」等のジェフリー・プライスとピーター・S・シーマン。
製作総指揮にスティーブン・スピルバーグとキャスリーン・ケネディ。そしてディズニーのドン・ハーン。
音楽は「バック・トゥ・ザ・フューチャー」そして東京ディズニーシーの伝説のエンターテイメント【レジェンド・オブ・ミシカ】を手掛けた事でも有名なアラン・シルヴェストリ。
原作はゲイリー・K・ウルフによる小説作品「Who Censored Roger Rabbit?」。
根っこの世界観・登場人物は踏襲されていますがプロットや設定は大きく改変が加えられています。
1940年代のハリウッド、アニメ(トゥーン)のキャラが現実社会に実在している不思議な世界で巻き起こる、主人公ロジャー・ラビットを取り巻く事件を描いたミステリーアクションコメディ。
この作品の最大の特徴はアニメのキャラクターと人間が共存する世界観と、スターシステムを使用し様々な会社のキャラクター達を共演させていること。
ミッキーやドナルドを始めとしたディズニーキャラクターだけではなくバックス・バニーなどのワーナー、ウッドペッカーのユニバーサル等多数の異なる会社のキャラクター達がゲスト出演し、共演を果たしています。
尚、ワーナーやユニバーサル等はあくまで「キャラクターのレンタル」を許可しただけであり、制作には関わっていません。
主人公ロジャー・ラビットの声を演じるのは作家としての一面も持つ多彩な俳優チャールズ・フライシャー。
日本語版は山寺宏一さん。
余談ですがこの作品の山寺さんの演技は、同じ陽気な性格のキャラクターであるジーニーやムーシューとはまた違った種類の声色になっていて、この方の声優としての器量の高さを感じることができます。
ロジャーの妻ジェシカ役には女優のキャスリーン・ターナー。歌はエイミー・アーヴィング。
日本語版はディズニー作品を含む様々な吹き替えを担当する一城みゆ希さん。
実写俳優では、もう一人の主役・エディ役に「モナリザ」のボブ・ホスキンス。
ヴィランの立ち位置であるドゥーム判事役にはバック・トゥ・ザ・フューチャーのドクで世界的に有名なクリストファー・ロイド。
興行収入はスマッシュヒット程度で終わり、決して大成功と言える数字ではありませんでしたが、その評価は非常に高く、アカデミー賞では3部門を受賞。
革新的な映像表現と世界設定、コメディエンターテイメントとしての完成度の高さ等が絶賛されました。
何よりもその「カートゥーン賛歌」とも言えるべき内容は、当時勢いを失っていたアメリカのカートゥーン業界を再び盛り上げる起爆剤となり、その革新的映像技術と共に、以後のアニメーション業界・映画業界に多大な影響を与えました。
東京ディズニーランドをはじめ、ディズニーパークにも作中の舞台を再現したエリア・トゥーンタウンやアトラクションが登場し、その人気は徐々に拡大。
現在でも、ディズニーファンだけではなく映画ファンからも高い支持やカルト的人気を獲続けている伝説的な作品となっています。
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あらすじ
1947年のハリウッド。
アニメーションのキャラクター達はトゥーンタウンという街で暮らし、人間達と共存していた。
カートゥーンスターのロジャー・ラビットはスランプに陥っていた。妻のジェシカに浮気の疑惑が浮上していたからだ。
撮影に身が入らないロジャーを見兼ねた映画会社の社長・マルーンは探偵を雇いジェシカの浮気の真相を調べさせる事にした。
呼び出された私立探偵・エディは、過去のとある事件が原因でアニメやトゥーンタウンを忌み嫌っていた。
金に釣られて渋々仕事を受けたエディは、ロジャーの妻ジェシカとトゥーンタウンの所有者・アクメの密会現場を写真に収める事に成功する。
写真を見たロジャーは取り乱し、興奮した状態で夜の街に消えていった。
しかしその翌日、なんとアクメが殺害され遺体として発見される。
そしてロジャー・ラビットはその容疑者筆頭として、事件を担当するドゥーム判事から追われる身となってしまった。
ロジャーから頼られたエディは、成り行き上仕方なく事件の真相を追うことになる。
しかし、この事件の裏にはトゥーンタウン全体を揺るがす大きな秘密が隠されていた…。
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感想
正直この作品は長年ずっと観るのを避けていました。
なんとなく勝手なイメージでもっと軽率な、カートゥーンを皮肉ったようなギャグ映画だと思ってしまっていたからです。
初めて観たときは頭を殴られたような衝撃を受けましたね。
同時にもっと早く観ればよかったと心底後悔しました。
アニメーションへの愛に溢れた、正に史上最高の「カートゥーン賛歌」。
現在はどちらかと言うと【知る人ぞ知る】的な立ち位置に甘んじている作品ですが、なぜそんな微妙な知名度なのか理解に苦しみます。
もう今では絶対に作れない、あらゆる面で間違いなく歴史に残る最高の傑作だと思いますね。
詳しくは↓↓で〜。
努力と執念が作り上げた独自世界
まずやはり今作といえば何と言ってもその拘り抜かれた映像表現。
これまでの実写+アニメーション作品とは一線を画す全編に渡る濃密な両者の交わり合いと相互作用。アニメが現実世界に生きていると信じ込ませる為のいくつもの工夫と努力。
この異常なまでの拘りは本当に圧巻です。
キャラクターが歩いたり飛んだりすればセットや小道具が揺れたり、ぶつかればちゃんと倒れ、壊れ、リアルなお皿でロジャーの頭を叩けばそのお皿がちゃんと割れる。
重量感のある物体としてちゃんと魅せれているのが本当に素晴らしいんです。
そして凄いのがボブ・ホスキンスを始めとする役者さん達の演技。
本当に横にロジャーが居て、ロジャーと会話し、ロジャーと小競り合いをしてるようにしか見えない圧巻の【目線】の演技。
実写+アニメーションで最も難しいのはこの演者の【目線と焦点】があとから合成するアニメにどうしても合わない事です。
実際に撮影の時はそこにキャラクターは居ないわけですから当たり前ですよね。
そこを本当に見事にこの作品はクリアしています。これは些細なことの様に感じますが実際に見てみるとこれができてる物とできていない物では説得力が本当に全然違うんですよ。
そして何よりも驚愕なのがこの作品のアニメーションがCG一切なしの全編手描き&手作業で制作されている事。
一枚一枚役者だけが演技した映像の写真にセルを重ねて手描きで描いてるんですよ。
これはねぇ、、、ちょっと本当にニワカには信じられません。
しかもCGのように立体的に魅せる為に影や光のセルを何重にも重ねて一枚一枚撮影しています。
これがまた物凄いクオリティなんですよ。
滑らかに活き活きと動き、エディと変幻自在の絡みを魅せるロジャーは必見です。
そしてロジャーの妻ジェシカの【人間のようだけどカートゥーンでしか決して有り得ない】そのデザインと動きも大きな見処。
この作品のアニメーションにはディズニーのトップアニメーターの一人であるアンドレアス・デジャやデール・ベアも参加しています。
ていうか本当にちょっと未だに信じられません。
これが全て手作業なんて…。
CGはやはり当時も検討されたそうです。
しかし制作スタッフの大半は断固拒否。
あくまで手描きに拘りました。
その理由は【過去のキャラクター達への敬意を忘れたら別物になる】からだそうです。
比較対象にしやすい、今作の精神的続編とも言われている【チップとデールの大作戦 レスキュー・レンジャーズ(2022)】と比べるとそのクオリティの違いは一目瞭然ですね。
この作品に携わったアニメーターやスタッフ達は口を揃えて【一番大変だった作品】としてロジャー・ラビットを挙げています。
それもその筈です。
ここまでの作品にまとめ上げたアニメーション監督のリチャード・ウィリアムス(2019年ご逝去)には心から拍手ですね。本当に。