はぁいどうもぉ。
さて、今回も恒例のディズニーアニメーション映画史。時代は輝かしい1990年代を終えて【ディズニー第3の暗黒期】とも言われている2000年代の真っ只中です。
2004年をもって手描き2D映画から撤退。フルCG映画制作への完全移行を実施したディズニー・アニメーション・スタジオ。
ジョン・ラセター主導にて制作された前作の「ボルト」は近年無かった程の高評価を獲得し興行収入面でも上々の結果に。
世間ではこの「ボルト」によってディズニーはついに第三の暗黒期を脱出したとも言われました。
そうした中でディズニーは突然一度撤退した2Dアニメーションへのカムバックを発表します。
大きな話題を呼ぶ中公開されたのがこちらの作品でした。
(※当ブログは基本ネタバレありです。ご了承下さい。)
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プリンセスと魔法のキス
(原題:The Princess and the Frog)
2009年
監督
ジョン・マスカー
ロン・クレメンツ
データ
ウォルトディズニーアニメーションスタジオ49作目の長編アニメーション。
同時に2004年の「ホーム・オン・ザ・レンジ」以来5年ぶりとなるディズニーの2D長編アニメーション映画です。
「現状でWDAS最後の2D長編アニメーション映画」とよく言われますがこれは誤りで正しくは2011年の「くまのプーさん」がそれに当たります。
監督に「リトル・マーメイド」や「アラジン」等数々の名作を生み出してきたジョン・マスカーとロン・クレメンツのディズニールネサンス黄金コンビが久々のカムバック。
一度はディズニーを退社していた二人ですが、ラセターに呼び戻されました。
脚本には「トレジャー・プラネット」に引き続きロブ・エドワーズが参加。
音楽は「トイ・ストーリー」シリーズをはじめ様々なピクサーアニメーション作品で名を上げたランディ・ニューマンが担当。
題材は作家E.D.ベイカーの小説『カエルになったお姫様』及びグリム童話の『かえるの王さま』。
蛙に姿を変えられてしまった【夢の為に努力を惜しまない女性ティアナ】と【親に勘当され金の無い王子ナヴィーン】を主人公としたファンタジーアニマルアドベンチャー。
ディズニー得意のプリンセスストーリーとアニマルストーリーを融合させた珍しい作品となっています。
ティアナ役を「ドリーム・ガールズ」で有名な女優のアニカ・ノニ・ローズが演じた事でも話題になりました。
興行収入は「チキン・リトル」や「ボルト」には及ばないもののそこそこの数字を記録。
評価面でも概ね高評価を獲得し、アカデミー賞にもノミネートしましたが、どちらもディズニーの予想を下回り、結局2Dアニメーションが主流に返り咲くことはありませんでした。
その事からしばしば不発作品と言われてしまう事も多かったのですがここ数年で再評価が進みティアナのプリンセスとしての人気も上昇傾向にあります。
ただし、本作は初のアフリカ系アメリカ人のプリンセスストーリーという側面から複雑な要素が絡んでいるのも事実で、今もある一定の方面からは根強い批判を受け続ける作品でもあります。
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あらすじ
舞台はルイジアナ州ニューオーリンズ。
料理が得意なティアナという女性は亡き父から受け継いだ【自分のレストラン店を持つ】という夢を叶える為、ウェイトレスの仕事を掛け持ちしながら日々努力を惜しまずコツコツと開店資金を貯めていた。
一方マルドニアの王子ナヴィーンは親に勘当され、ほぼ一文無しの状態でニューオーリンズにやってくる。召使いのローレンスと共に金持ちの令嬢との逆玉の輿結婚を目論見、街の金持ちが開く仮装パーティーへ参加しようとしていた。
そんなナヴィーン達にブードゥーの呪術師ドクター・ファシリエが突然接触。彼に騙されたナヴィーンはなんとその姿を蛙に変えられてしまう。
時を同じくしてティアナは友人の家が開く仮装パーティーをきっかけに、ついに夢のレストラン開店の足掛かりを掴む。
そして迎えた仮装パーティーの夜。
ティアナとナヴィーン、二人の運命は交錯し大きく動き出そうとしていた…
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感想
公開当時から凄く好きな作品です。
制作の期間及び費用が少しシビアだったという事もあり作画や中盤の展開の捻りに若干の難がありますが、それを補って余りある全体プロットとテーマ性・雰囲気の作り込み素晴らしさとキャラクター性の高さを誇る傑作です。
「今までにないプリンセスストーリーを」という目標で制作されただけあって【これまでのディズニーのお決まり】を覆す展開が多数盛り込まれています。
お金のないチャラ男な王子、ただ夢を見続けることに否定的な【星に願う】事を嫌うプリンセス、そして予定調和の奇跡は起こらず死んでしまう仲間…。
ただ個人的にこの作品の凄いところは「それだけに留まっていない」こと。
お決まりを覆した「その先の答え」をちゃんと見せてくれていること。
ただこれまでのウォルトディズニーのお決まりを壊す「まで」に留まったのが「魔法にかけられて」
ウォルトディズニーをただリスペクト(もしくは裏読みなら批判)したのが「ルイスと未来泥棒」
なら、
今作は【ウォルトディズニー往年の名作へのアンサームービー】のような内容になっています。
この練りに練られたプロットは本当に圧巻でした。
まぁその辺詳しくは↓以下↓で〜。
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夢を否定したその先
主人公のティアナは夢を叶えるために必死に仕事を掛け持ちし、周りに馬鹿にされながらも懸命な努力を怠らないキャラクター。
作中で何度も【夢は願うだけでは叶わない】と有名なウォルトの言葉を否定し続けます。
【夢は努力して初めて叶う物。欲しい物は努力しなければ手に入らない。】
というのがティアナの精神です。
確かにこの考えの方が説得力があるし、現代の価値観ですよね。
実際に彼女はその努力を実らせ、最後には夢を叶えます。
じゃあこの作品は【夢を願い信じ続ける事を否定する映画】なのかと言ったら、そうじゃないんです。
コレが凄い所。
実は作中でティアナと全くの対を成すキャラクターが居ます。
友達のシャーロット…ではありません。
彼女もある意味ではそうなのですが、少し性質が違います。元から恵まれているので。
じゃあ誰なのか。
そう。ホタルのレイです。
彼は夜空に輝くただの願い星を美しい雌ホタル「エヴァンジェリーン」と思い込み、彼女に恋をしています。
そしていつか彼女の傍に行けることを願い、信じ切っています。
「そんな物叶うわけない」と内心思いながらもティアナ達はレイに真実を言わずにいました。
そしてレイの影響やママオーディの「欲しい物と必要な物の違い」という言葉、ナヴィーンへの想いから自分も夢とは違う【願い】を見つけたティアナ。
しかしその願いが壊れたと思い悲しみにくれるティアナは八つ当たりでついにレイに「エヴァンジェリーンはただの星」である事を話てしまいます。
「傷付く前に現実を見ろ」と。
しかしそれでも自分の願いを疑わず、逆にティアナを心配したレイは、彼女と王子二人の友達のために体を張って奮闘し最後はファシリエに殺されてしまいます。
彼はわかっていました。
信じることの大切さを。
そして夢は叶いませんでしたが必要な物、すなわち「愛」を持っていました。
ティアナの父親と同じです。
彼を埋葬するティアナ達。
レイは川に葬られその姿は見えなくなっていきました。
そしてその時です。
夜空に輝くエヴァンジェリーンのすぐ隣に、新しい星が寄り添うように輝いていました。
彼の願いは叶ったんです。
信じ続け、愛を持ち続けて、叶えたのです。
馬鹿みたいな、叶う訳のない彼の夢は確かに叶いました。
そしてティアナも必要な物「愛」を心に持った事でその願いを叶えました。
ウォルトの言葉には実は続きがあります。
「夢は叶う。願い続けることができれば。」
と。
この映画はティアナを通じてウォルトの言葉の否定の視点から入り、レイを通じてウォルトの言葉を肯定し、そして夢を叶えられなかったティアナの父親を通じてその先の「夢と必要な物の違い」という新たな概念まで提示しています。
ティアナのように夢を叶える為に必要な努力をする事も、レイのように夢を信じ続ける事もどちらも間違いではない。
ただそれ以前に、あなたの夢に必要なのはもしかしたら「愛」じゃないですか?
とこの映画は言っています。
「願えば夢は叶うなんてバカバカしい。現実を見なさい。」
「夢を願い信じ続けるだけじゃダメ。努力しなさい。」
決してそういう映画ではないんです。
ただ、お決まりをぶっ壊して楽しむ浅はかな作品でも決してありません。
ただ話題作りに夢を見続けることに否定的なプリンセスを登場させたわけでも、小手先の意外性重視でレイを殺したわけでもありません…。
全てに意味があります。
そして全ての登場キャラクターにテーマに関わる役割があります。
よく【夢に向かって努力するティアナが素敵】というような意見を耳にします。
それはそうなんですが、彼女はその先で「夢に向かって努力すること」よりも大切な物を見つけるんです。
このプロットは本当に感服です。
こんなに練り込まれたプロットのプリンセス映画は、他にありません。
そしてニューオリンズが舞台ということでブードゥー呪術を大きくフィーチャーしてるのもこの大きな特徴。
ブードゥーを操り、ブードゥーに操られるドクター・ファシリエはこれまでにない特異な存在感を放つヴィランでした。
そしてティアナ達を導くママオーディもこれまでの「魔法使いのおばあちゃん」のイメージとは一線を画するファンキーなブードゥーおばあちゃんでインパクト大でした。
登場シーンは少ないながらも作品の大きなテーマに関わる重要なキャラクターです。
そして前述したシャーロットも非常に重要なキャラクター。お金持ちのご令嬢でワガママな娘で、普通の作品なら悪キャラにされてしまいそうな所ですが、彼女もまた「必要な物」をしっかり持った女性として描かれています。
中盤展開のツメの甘さ
この素晴らしすぎる全体のプロットとは裏腹に、中盤の展開や演出にちょっと惰性感が否めないのは事実です。
特にティアナがカエルになってからママオーディに会うまでのアドベンチャーパートの流れがちょっと中だるみしてます。
ワニやハンターに襲われたりルイスやレイとの出会いも描かれミュージカルパートもあり、色々やってはいるんですが如何せん取り急ぎ取ってつけた感が透けて見えてしまいます。
ハンターのシーンなんかは完全に尺稼ぎじゃないの?と疑ってしまうほどです。
おそらく全体プロットが先にあって間を埋めるように制作されたシーン達だと思うのですが…。
それと作画とアニメーション。
頑張ってはいますがどうしても手描きアニメーション全盛期の90年代やトレジャー・プラネットと比べると全体的に見劣りしてしまいます。
これらはやはり5年間のブランクと性急な制作期間が大きく影響してるような気がしますね。
ラセターが一度解雇したアニメーション人材を取り急ぎ雇い直して急遽作らせた作品なので、なんとなく「焦って作った」感がどうしても拭えません。
どうせ伝統の2Dアニメーションを復活させるなら、もう少しジックリと腰を据えて作らせてあげてほしかったなぁと思います。
全体的には本当に良い作品なのにこの点だけがホントに惜しいです。
ミュージカルの復活
そして今作はもう一つ、久々のミュージカル映画の復活という大きなトピックがあります。
実に七曲ほどのミュージカルが導入されている今作。その作り込みは曲によって多少の出来の違いはあれどどれも渾身の仕上がりになっています。
「夢まであと少し」はティアナが母親に自分の夢を語るミュージカルシーンですが、個人的にはこの時にほとんどのシーンがアーロン・ダグラスのオマージュ風イラストで描かれていたのは少し残念でした。
好きな人もいるとは思いますが、久々のミュージカルだし大事なシーンだったのでここはガッツリ本気アニメーションで勝負して欲しかったです。
いやこれはこれで良い出来なんですけどね。
やはり音楽・シーン共に素晴らしいのはママオーディが歌う「もう一度考えて」ですね。
この曲はねぇ。
個人的にはディズニーの全楽曲の中でトップ3に入るくらい大好きですね。
ゴスペル風のファンキーなメロディとアレンジも最高ですが、何より歌詞が素晴らしい。
この作品のテーマを見事に捉えていますね。
他にも素敵なニューオリンズらしいジャズをベースにした良曲が揃っています。
レイが歌う「連れて行くよ」なんか思わず口ずさんじゃいますよね。
「ぬま〜ち〜のな〜か♪」
実は今作は途中まで音楽をアラン・メンケンが担当する予定でしたがラセターの意向でランディに変えられた経緯があります。
だけど流石ですね。ランディ・ニューマン。
素晴らしい音楽達でした。
観れば観るほど大好きな作品ですね。
大ヒットしなかったのが本当に不可解です。
この近辺20年くらいの作品の中では間違いなくダントツの作品だと思うんですけどね…。
脚本家が「プリンセスストーリーが苦手な人の為のプリンセスストーリー」と言う、まさにその通りの作品になっています。
そして【根本の信念】をぶらす事なくそれをやってのけてるのがこの作品の凄い所です。
エンターテイメントとしてもニューオーリンズの新鮮な空気感やブードゥー、カエルの愉快なモーション、そして楽しいミュージカルシーン等、まさに申し分ない仕上がり。
子供もガッツリ楽しめますし、何より【夢は叶う】なんて馬鹿馬鹿しいと思っているディズニー苦手な大人に、ぜひ一度観て欲しい作品です。
はい。
という事で今回はこの辺で!
長々お付き合い頂きありがとうございました。
ではまた次回。
しーゆーねくすとたいむ。