はぁぁいどうむぉ。
さて、今回も恒例のディズニーアニメーション映画史。時代は輝かしい黄金期・ディズニールネサンスと言われた1990年代を終えて【ディズニー第3の暗黒期】とも言われている2000年代の真っ只中です。
2004年をもって手描き2D映画から撤退。フルCG映画制作への完全移行を実施したディズニー・アニメーション・スタジオ。
ピクサーの買収やジョン・ラセターのチーフ就任等の大改革を経て公開された前作の「ルイスと未来泥棒」は近年無かった程の高評価を獲るものの興行収入は低迷。
そんな中暗黒期脱出を目標に初のジョン・ラセター主導の企画・制作作品として公開されたのがこちらの作品でした。
(※当ブログは基本ネタバレありです。ご了承下さい。)
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ボルト
(原題:Bolt)
2008年
監督
クリス・ウィリアムズ
バイロン・ハワード
データ
ウォルトディズニーアニメーションスタジオ48作目の長編アニメーション。
あらすじ
ボルトは飼い主でありパートナーである女の子ペニーと共にテレビドラマで活躍する俳優犬。
スーパーパワーを持つヒーロー犬として人気を誇っていた。
監督の意向で自分が本物のスーパーヒーローであると信じ切っているボルトに配慮して撮影は行われ、飼い主のペニーも一緒に暮らす事を許されず撮影所のトレーラーにボルトを住まわせていた。
ペニーはボルトを愛しており、彼との時間をマネージャー等に要求するが聞き入れてもらえず悩む。
そんな時、ペニーが悪党の「緑の目の男」にさらわれたと思い込んだボルトはパニックになりトレーラーから脱走。
偶然が重なりトラックに積み込まれたボルトは撮影所から遠く離れたニューヨークの地で迷子になってしまう。
ペニーを助けるべく「緑の目の男」のアジトを目指すボルトは、道中で黒猫のミトンズやハムスターのライノに出会う。
成り行きで二人と共にアジトがあるとされるハリウッドを目指すことになる。
自分のスーパーパワーやドラマの設定を信じて疑わないボルトだったが、旅をしていく中で自分の変化と違和感に気付いていき…
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感想
全体的にうまくまとまった良作だと思います。
ストーリー、キャラクター、エンターテインメント、どれも平均点以上のレベルでまとまっているし、両方対象だけどどちらかというと大人よりな作品バランスも流石です。
ただ明らかに作品全体のテイストがディズニーアニメーションスタジオの物から、所謂当時のピクサーテイストにスタイルチェンジしていることは明らかです。
言葉を選ばずに言うとこの作品は
味の薄まったピクサー映画。
この言葉がピッタリだと思います。
世間的にはこっちのほうが間違いなく受ける時代だったし、成績を見てもこれは正解だったんだろうと思います。
トイ・ストーリーやモンスターズ・インクは間違いなく名作ですし、ジョン・ラセターを毛嫌いしているわけでもありません。
が。
自分みたいな面倒くさいWDASファンからすると、どうしても「これがやりたきゃピクサーで…」と思ってしまうのと、クリス・サンダースの件が許せなさすぎて、心から受け入れられない複雑な部分があります。
ボルトは本当に良い作品ではあると思います。
ただやはり、改変される前のクリス・サンダースのアメリカン・ドッグが観てみたかったと思う気持ちは消えませんね。。
実際にこの後ラセターは手描き復活の「プリンセスと魔法のキス」やピクサー買収前から計画が進められていた「塔の上のラプンツェル」クラシック作品「くまのプーさん」の続編等、WDASならではを活かした方向性にシフトするので、ボルトはわりと例外的に「ピクサー作品の劣化版」みたいな作風になっちゃってる所はあると思います。
ラセターからするとこの時は就任直後で「安牌でも良いから兎に角結果が欲しかった」んでしょうね。
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安定したストーリー力と
突き抜けない展開
全体的にストーリープロットや設定は非常に安定した面白さです。まずそもそも俳優犬が役柄とドラマの世界を現実と思い込んでるという設定からしてかなり面白いんですよね。
そしてパートナーであるペニーとの絆。
それを軸にうまくまとめあげています。
大きな驚きや捻りは足りないですけどね。
ただ題材や設定の面白さのわりには後半失速というか、盛り上がりに欠けたかなぁというのが正直な所です。
中盤までは良かったんですけどね。
ストーリー展開、演出、エンタメ性、ドラマ性、全てが大幅に失速しちゃった感があります。
ただやっつけでストーリーをハッピーエンドに収束させただけという感じが…
思うにこのストーリーのポイントは「ボルトが何処でどのように自分に力が無いことに気づくか」と「ペニーとどの様に再会するか」の2点だと思うんですが、このポイントを二つともイマイチうまく扱えてない気がします。
ミトンズとライノというサブキャラクターが実質的にこの映画を引っ張っていてこの二人は確かにかなり魅力的なキャラクターなんですが、この作品のテーマである「ボルトとペニーのスーパーパワーに勝る絆」というのをもっと丁寧に描いて欲しかったです。
ボルトが自分の正体に気づくのがちょっと早かったかなぁと思います。ミトンズにレクチャーされてボルトが普通の犬の楽しさを知るシーンがあるんですが、個人的にはあれはペニーとエンディングとかでやって欲しかったですね。
ちょっと何をしたい映画なのかがよくわかんなっちゃってる部分があります。
あと、エンタメとしてもクライマックスは火事だけってのはちょっと盛り上がりに欠けました。
もう一つ捻りが欲しかったです。
ヴィランが登場しない構成なんですけど、それが功を奏する場合もありますが今作に関しては明確な悪役が一人居たほうが良かったかもしれないですね。
魅力的なサブキャラクターと音楽
動物以外のキャラクターデザインも軒並みピクサー感が強くなっているのも今作は特徴的です。
次作からはディズニー色強めに戻るんですけどね。特に人間キャラのディテールは非常にわかりやすいですね。
ディテールだけでなくモブキャラクターの使い方、今作で言うと鳩達の「あいつ誰だっけ?」の繰り返しギャグとかとてもピクサーっぽいですよね。
そんな中で今回は野良猫のミトンズとヒーローに憧れるハムスターのライノという2つのキャラクターがとても魅力的に描かれています。
上でも書きましたが実質この二人が作品を引っ張っていましたね。
特にライノはこの近年の中で久々の大当たりなサブキャラクターでした。
コメディリリーフとしても最高ですが物語を引っ張る力もあるのが彼の凄い所ですね。
真実を知って落ち込んだボルトを励ましたり、離れようとするミトンズに対して「仲間を見捨てない」と堂々とボルトの所へ向かう姿はどちらも今作随一の名シーンだと思います。
やはりそのキャラクターは好評を得たようで、後に彼が主役の短編作品も制作されました。
この物語で唯一最後までヒーローを信じていた彼がペニーの家族になる経緯とかも出来れば見たかったですね。
ミトンズは人間に捨てられた過去を持つ野良猫。
ウェットもあり、とても良いキャラクターでした。役割的にはトイ・ストーリー2のジェシーと似ていますが、彼女に関してはその悲しい過去との決着とか、ボルトと仲間になるまでの経緯とか全体的に描き方が少し雑だったのは少し残念でしたね。魅力的なキャラだっただけに。
そして今作は音楽も久々に素晴らしいです。
劇伴もかなり良いんですが、特に挿入歌のジェニー・ルイスが歌う「Barking at the Moon」という曲は文句無しで素晴らしい曲ですね。
作品にしっかり寄り添った曲ですが、それ以上に単体の音楽としても凄くクオリティの高い名曲です。
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間違いなく家族で安心して見れる良作ですね。
全てにおいてしっかりと作られたハイクオリティなCGアニメーション映画です。
ただ前述した通り設定と掴みの面白さ、「人間と動物の絆」というテーマの深さのわりには全体的に突き抜けない印象は拭えません。
それと、おそらく全ディズニー映画の中で一番【ピクサーっぽい】映画である事も間違いないでしょう。
ジョン・ラセターがピクサーで培ったノウハウを使って次に繋げるためのとりあえずの結果を出しに来た、言い方を変えると【置きに来た作品】という印象はどうしても透けて見えてしまいますね。
ただ、キャラクター性や音楽等、素晴らしい部分も沢山あるので未見の方は是非一度観ておいて損はないと思います。
しつこいですが特にライノは個人的には結構全ディズニー映画の中でも五本の指に入る名サブキャラクターだと思いますね。
はい。
というわけでこんな感じで!
今回もお付き合い頂きありがとうございました〜。
しーゆーねくすとたいむぅ。