はぁいどぉぅもぉ。
さて、今回はディズニーアニメーション映画史。時代はついに1990年代、ディズニーアニメーションスタジオの第二黄金期【ディズニー・ルネサンス】と言われている時代の真っ只中。
暗黒期と呼ばれた1980年代の低迷から、起死回生の一本「リトル・マーメイド」と共についにその財政と世間の評価・信頼を大きく回復させたディズニー。
さらに「美女と野獣」「アラジン」「ライオン・キング」では正にルネサンスの絶頂期とも言える歴史的なメガヒットの連打を実現します。
しかし、正に飛ぶ鳥を落とす勢いだったディズニースタジオですが95年の「ポカホンタス」から徐々に興行収入は下降線へ。
難しい題材と大人向けの内容が増加し、多方面で様々な物議を醸す事も多くなりました。
(※当ブログは基本ネタバレありです。ご了承下さい。)
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ムーラン
(原題:Mulan)
1998年
監督
バリー・クック
トニー・バンクロフト
データ
ウォルトディズニーアニメーションスタジオ36作目の長編アニメーション。
バーバンクのメインスタジオではなく、1989年にフロリダにオープンしたテーマパークと一体型のディズニー・MGMスタジオにて制作された初めての長編アニメーション作品です。
原作は中国の古典演劇・豫劇「花木蘭」。
ムーランは豫劇の主人公で大筋は映画と同様父の代わりに男装して出兵したとされる伝説の人物ですが、実在した可能性があるとも言われています。
今作はそんな豫劇や伝説を元にディズニーが大きなアレンジと改変を施したファンタジーアクションアドベンチャーです。
フロリダ作品の第一弾としてアジアを舞台にしたアニメーション作品が企画された事を発端に、3週間の中国への取材旅行等を行った後1994年頃から本格制作が開始されました。
監督はディズニーでの仕事はほぼ初めてと言っていいバリー・クック(「ウォーキングwithダイナソー」で有名な方です)と、これまでアニメーターとして美女と野獣、アラジンやライオン・キング等で活躍していたトニー・バンクロフトというフレッシュなコンビ。
ストーリーは原案者でもある児童書作家のロバート・D・サンスーシを中心に、脚本には「リロ&スティッチ」のクリス・サンダースや「ポカホンタス」のフィリップ・ラゼブニク等の面々も名を連ねています。
音楽担当もディズニーアニメーション初参加のジェリー・ゴールドスミス。「ランボー」「スタートレック」シリーズ等錚々たる作品を手掛ける作曲家です。
楽曲制作もディズニー初参加のマシュー・ワイルダー、そして「ヘラクレス」に引き続きデイヴィッド・ジッペル。
主人公のムーランを演じたのはディズニー内外を問わず女優として様々な作品で活躍し、2019年にはディズニーレジェンドを受賞したミンナ・ウェン。同じくディズニーレジェンドのレア・サロンガ。二人共その後の様々な作品で長きに渡り同役を演じ続けています。
日本語版はリトル・マーメイド アリエル役でもお馴染みのすずきまゆみさん。
歌は美女と野獣 ベルの伊東恵里さん。
ムーランの相棒である龍のムーシュー役には超著名ハリウッドスターのエディ・マーフィ。
日本語版はディズニージャパンボイスの重鎮山寺宏一さん。
ムーランの所属する部隊の隊長・シャン役は「ジュラシック・パーク」シリーズでもお馴染みのBDウォン。日本語版は園岡新太郎さん。
ビル・ファーマーやコーリー・バートン、フランク・ウェルカー等ディズニーお馴染みのボイスアクター達も多数出演しています。
ちなみに、本作のシャン隊長の中国吹き替えとしてあの世界的スタージャッキー・チェンも作品に参加しており、楽曲「闘志を燃やせ!」では歌唱
も務め話題になりました。
興行収入面においては、ルネサンス絶頂期の作品群には及ばないものの、ポカホンタスから続いた3作連続での収益ダウンについに歯止めをかけ、前作のヘラクレスを大幅に上回る数字を記録しました。
評価面では批判家陣からはそのこれまでと異なる渋めのデザイン・音楽・作風や女性キャラクターの描かれ方等はに賛否両論の論評となったものの、一般評価としては非常に高い好感と支持を獲得する事に成功。
特にそのアニメーション、スピード感のあるストーリー、ムーランやムーシューのキャラクター性等が称賛を集めました。
そのトータル完成度の高さが話題となり、アニー賞の作品賞も受賞しています。
現在でも「ライオン・キング」や「アラジン」等の超メジャー作品群と比べると若干知名度は低めなものの、世界的に多くのファンを獲得し続けている人気作品となっており、ディズニー映画という枠に囚われることなく一つのストーリー作品としても認知され、公開から25年以上が経過しても尚、沢山の人々から愛され続ける一本となっています。
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あらすじ
時は昔、場所は中国。
ファ家の娘ムーランはお転婆で活発な女性であったが、家名を守るため日々上手く行かない嫁入り修行とお見合いを繰り返していた。
本当の自分で居たい想いと家名を守りたい想いの間で悩んでいたそんな時、中原侵略を目論む北方騎馬民族・フン族の侵攻とそれにより国中に各家男子一人の徴兵令が下ったという知らせが届く。
ムーランの父親は高齢で足の悪い中、家名の為国の為に捨て身の覚悟で出兵を決意する。
見兼ねたムーランはそんな父に代わり、髪を切り落とし父の鎧を着け男装をし、家族に黙って性を偽って従軍する為に家を出る。
時を同じくして、過去の失態が原因でファ家の守り神を降ろされていた赤竜のムーシューは、ムーランに協力し手柄を取らせれば自分も守り神に戻れると目論み、彼女と行動を共にすることになる。
男ばかりの軍隊の中で、訓練についていけないムーランであったが徐々にその機転の良さを発揮し頭角を表し始める。
そんな中フン族・シャン・ユーの部隊は国の本隊を全滅させ、ムーラン達のすぐ側まで迫っていた…
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感想
めちゃめちゃ良い映画です。
殺し合いの戦争が舞台だったり、ジェンダー問題が主題だったり、これまでのディズニー作品になかった新しい事を物凄く沢山やっているにも関わらず、紛れもない【ディズニーのファミリーエンターテイメント作品】にきちんと仕上がっているのがホントに凄いです。
ディズニー長編アニメーション映画では初の東アジアが舞台の作品であり、ムーランは東アジア初のディズニープリンセスという事になります。
(ただし、彼女もポカホンタス同様王族でもなければそこに嫁いだわけでもないので厳密にはプリンセスではありませんが…)
音楽やデザイン・アニメーションにもアジアンテイストが前面に押し出されています。
さらに人間と人間による生々しい【戦】が主として扱われていたり、女性と男性に関しての突っ込んだ台詞や表現も多かったり、本格的なカンフーアクションが取り入れられていたり…
と、、これまでのディズニーファンタジーには無かった新しい要素が本当に多く取り入れられているんですよね。
キャラクター、音楽、アニメーション、デザイン、そのどれもがこれまでと違うアジアン+ディズニーという難題を見事に仕上げていて、それぞれのセクションがそれぞれにとても良い仕事をしています。
そして重い題材にも関わらず、作風自体が全く暗くなる事なくコメディも満載で、大人も子供も楽しめるディズニーエンターテイメントにしっかりと昇華されています。
ホントに見事。
あっぱれな傑作だと思います。
個人的には全てのディズニー作品の中でトップ10には間違いなく入る、大好きな作品ですね。
アジアンとディズニー2つの世界の見事な融合
ここは非常にこだわって作り込まれていますよね。要所に挟まれる水墨画のシーンや音楽、そしてキャラクターデザイン、細い所では爆発や炎等の特長的なエフェクト等でアジア・中国のテイストをしっかり魅せ、同時にこれがディズニー映画としての新鮮味も産んでいます。
そこにエディ・マーフィー演じるムーシューというアメリカ的キャラクターと彼に関連するご先祖様系のファンタジー要素も絡めて、ディズニー流のエンターテインメントもしっかり魅せてくれているんです。
逆にそれ以外はほとんどノーファンタジーなわけで、人間的というか写実的な描写も多く、ディズニーのテイストが少し控えめな気もしますが、本筋や各キャラクターがよく作られているのでこれくらいがこの作品には確かに丁度良いんですよね。
ミュージカルも他作に比べ控えめですが絶妙なタイミングで絶大な効果を発揮しています。
魅せ方も非常に捻りがあってクオリティも高いです。
練り込まれたストーリーと脚本
なんといってもここですよね。
非常に良く出来ています。
まずは核となっている主人公ムーランのキャラクターとしての魅力。
ここがとても上手に表現されています。
思えばディズニー作品の主人公ってよくよく考えると自己中心的だったりわがままだったり、心から応援したくなるような好感度の高いキャラクターって実はあんまり多くないと思ってるんですけど、ムーランはこの作品のテーマである【人から求められる自分】と【自分がなりたい自分】の間で悩みながらも家族の為に、そして自分の中に何かを見つける為に行動を起こし、従軍してからも仲間の為国の為、自分を偽りながらもひたむきに努力していきます。
少し抜けてる所も普通の少女な部分もしっかりあり、キャラクターとしてしっかり魅力的に作り込まれてるなぁと思いました。
そしてそこに絡むムーシューもまた【自分がなりたい自分】になる為に自分を偽ってムーランと行動を共にしますが、最終的に二人とも自分を正直にさらけ出した時に【本当になりたい自分】になれた、、という。
この辺のテーマ性の描写も説教臭くない絶妙な塩梅で上手でしたね。
正体がバレて、ムーランとムーシュー、クリキーでそれぞれの嘘を告白し合うシーンとか…すごく良かったです。
これはやはり序盤の「家に名誉を」〜「リフレクション」という作り込まれたミュージカルシーンも非常に効いてます。
明確にこの作品のテーマを表してましたね。 有名な自分の化粧を半分ずつ拭い落とすシーンとか、、名シーンもホントに盛りだくさんです。
それとこの物語のポイントでもある「性別
詐称」ですが、これをクライマックスで逆パターンにして活かしているのも素晴らしい脚本だと思いました。
演出もストーリープロットも、実写映画的な表現をうまく用いながらしっかり戦モノとしての臨場感を持たせるように作られてるんですよね。
ムーランが自らの髪を切り意を決して軍に赴くシーンやシャン・ユーに本隊が全滅させられ村が崩壊するシーン等は…本当に実写映画さながらの臨場感です。
それでも重たくならず、ディズニー映画としての魅力を保っているのが本当に凄いし、ポカホンタスやノートルダムの鐘とはひと味違うところなんですよね。
そしてもう1つ特徴的なのが今作のヴィラン「シャン・ユー」の存在。
このシャン・ユーは非常に特殊なヴィランで、キャラクターとしての肉付けがほとんど無いんですよ。
台詞もすごく少なくて、まともな台詞って10回も無かったんじゃないの?と思うくらい。
いや数えてないけど。
専用のミュージカルシーンまで用意されていたスカーやジャファー、フロローらとは大違いです。
ただこれが物凄く功を奏してるんですよね。
前述のストーリーの臨場感を効果的に高めてますし、凄いのがそれでもこのシャン・ユーが強力な敵として圧倒的な存在感をちゃんと放っている事です。
物語の確実なエッセンスとしてしっかり機能してるんですよ。
基本足し算なディズニー映画に対して、この作品は全てにおいて取捨選択が非常にうまくいってる稀なディズニー映画だと思いますね。
美女と野獣と同じくらい「ディズニー映画好き」も、「普通の映画好き」も楽しめる素晴らしいバランスのストーリープロットだと思います。
実際にわりと多いですよね。
ディズニー映画はそこまで…だけどムーランは好きって人。
CGと手描きの魅力を詰め込んだ圧巻のアクションシーン
そしてこの映画に関して外せないのはこの話題。
これは有名ではありますがやはり中盤のクライマックスでの雪山での戦闘シーン。
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まとめ【ディズニーが魅せた新たな境地】
この作品は正直悪いところがあんまり見当たらないです。いや本当に良い映画ですね。
これまでと違う事を沢山しながらもしっかり【ディズニー流エンターテインメント】に昇華できているのが見事です。
ストーリーもルネサンス作品の中で一番キレイに無駄なく、そして魅力的にまとまっていると思います。
メインテーマだけじゃなく、ムーランの父親の感情とか、戦に向かう男達の心情とか…一つ一つを丁寧に描いている繊細な脚本が素晴らしいんですよね。
個人的には数あるディズニー映画の中でも随一の超オススメ作品です!
いつも長文駄文にお付き合い頂き本当にありがとうございます。感謝です!
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