゚Д゚) < Notebook (ノートブック / 2006年マラヤーラム語版) | インド映画噺

インド映画噺

主に映画の、主にインド映画の、あとその他の小咄を一席。
↓こちらも参照くださいな。
インド映画夜話
http://yuurismo.iza-yoi.net/hobby/bolly/bolly.html

Notebook (ノートブック / 2006年マラヤーラム語版) 2006年 145分(148分、150分とも)
主演 マリア・ロイ & ロマ・アスラーニー & パールワティ他
監督 ローシャン・アンドリュース
"私たちは親友。昨日も、今日も、これからも"

 

 

12月31日の夜。
 ウーティ(タミル・ナードゥ州ニーラギリ県ウダカマンダラムの略称)にある全寮制のローズ・アカデミーの高校生、シュリーデヴィ・スワミナータン(愛称シュリー)、セイラー・エリザベス、プージャー・クリシュナの3人は、新年を祝う全校集会を抜け出して、3人の永遠の友情を誓うための苗木"ヴィーナスの木"を学校の外に密かに植えていた。

 遅刻魔のセイラーは自由奔放な性格ながら、数ヶ月前に両親が離婚したまま別居中で、母親との仲が悪い。
 真面目な学級委員長のプージャーの家は、料理上手でよく友達にもご馳走を振る舞う母親との母子家庭。
 特に問題ない家庭で育つシュリーデヴィだったが、化学の試験中に生理痛で苦しみ出した時に、(セイラーの手引きで)クラスメイトの男子スーラジ・メーノーンに生理用品を買ってこさせてしまったことから、彼を意識してしまって気まずい日々を過ごす。
 騒がしく忙しい毎日の中、お互いを意識し始めたシュリーデヴィとスーラジは、やがて周りの女友達公認の仲へと進展。厳しい先生たちに隠れて、幸せな毎日を過ごしていたのだが……学校行事のゴアへのキャンプ遠足の後、シュリーデヴィはひどく塞ぎ込むようになり、セイラーとプージャーは気が気でない。
「どうしたの? 教えて。なにかあったんでしょ?」
「セイラー…私…間違いを犯してしまったの…。大きな間違いを…」
「なんなの? さあ、怒らないから何があったか言ってみて」
「遠足の夜の事よ…スーラジと2人きりになった時…。成り行きだったの。意図的だったんじゃない。でも…その間違いが、今はもっと大きな間違いになった気がするの…」

 

 

挿入歌 Changathikoottam (歌ったり踊ったり [するために、知り合いのバンドがやってきたよ])

 


ニコニコ タイトルは、映画終盤の重要アイテムのこと…であると同時に、学生時代の思い出を詰め込んだ手紙・伝言・アルバムの意味も込められてい…る?(エンディングに、クレジットに載せてそんなアルバムも出てくる)

 助監督出身のローシャン・アンドリュースの2作目の監督作となる、マラヤーラム語(南インド ケーララ州とラクシャドウィープ連邦直轄領の公用語)映画。
 似た名前の2004年のハリウッド映画「The Notebook」、2013年のハンガリー映画「The Notebook」、その他、2013年の同名ネパール映画、2019年の同名ヒンディー語(インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。フィジーの公用語の1つでもある)映画とは別物、のはず。

 南インドの有名な避暑地ウーティにある厳しい寄宿学校を舞台に、3人の女子高生たちの友情とその危機を描く青春映画。
 特に、映画前半はそれぞれに違う性格・異なる家庭環境を持つ3人の日常の悲喜交々が描かれていく色合いが強く、そこでのクラスメイトたちとの何気なくも騒がしく喜怒哀楽に満ちた日々、教師や保護者と言った大人たちとの対立などの日常劇が続いていく。
 冒頭、学校集会を抜け出してまで友情の宣誓を捧げる木を植える3人の友情が、それぞれの特徴的な性格の凸凹具合を衝突させつつも、高校生らしい大袈裟ながら美しい青春賛歌を紡ぎ出していく映画的な美しさがスンバラし(&そして、後に来るその崩壊具合がなんとも…。まさに壊すために、こんなに元気に永遠の友情を誓うシーン入れたよね!)。

 実際にウーティにある学校でロケされた(1部はケーララ州内の学校でも撮られているらしい)本作。その出演者も一般公募から集まった5000人の応募者から選抜されたと言う。
 実質的主人公のセイラー・エリザベス(劇中で言及はされてないけど、両親は異教徒同士の夫婦設定なのかな?)を演じたロマ・アスラーニーは、1984年タミル・ナードゥ州トリッチー(ティルチラーパッリ県都ティルチラーパッリの略称)のシンディー系(現パキスタン南部シンド地方起源でシンド語を母語とする、アーリア系の民族集団)家庭生まれ。
 モデル業を始めて、MV出演を経て2005年のテルグ語(南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語)映画「Mr. Errababu」で映画&主演デビュー。翌06年に、「Kadhale En Kadhale(愛、私の愛)」でタミル語(南インド タミル・ナードゥ州の公用語。スリランカとシンガポールの公用語の1つでもある)映画にも主演デビューし、同年公開作の本作でマラヤーラム語映画デビューも果たし、いくつかの女優賞を獲得。以降、マラヤーラム語映画界を中心に活躍中。08年には、「Aramane(宮殿)」でカンナダ語(南インド カルナータカ州の公用語)デビューもしている。

 インターバル直前の衝撃告白から事件の中心人物になっていくシュリーデヴィ・スワミナータンを演じたのは、1987年ケーララ州コッタヤム県都コッタヤム生まれのマリア・ロイ。叔母に、小説「小さきものたちの神(The God of Small Things)」でイギリスの文学賞ブッカー賞受賞者となった作家アルンダティ・ロイがいる。
 2003年のマラヤーラム語映画「Achante Kochumolu」に端役出演(?)した後、本作で主演デビュー。以後、マラヤーラム語映画で活躍していたものの、13年公開の「Hotel California(ホテル・カルフォルニア)」「Mumbai Police(ムンバイ・ポリス)」を最後に映画引退状態。時期不明ながら、ダンス修行のためイギリスとニューヨークへ6年間留学してたそうで、モデル兼ダンサーとしても活躍しているらしい。

 真面目な学級委員長ながら、セイラーとシュリーに振り回されるプージャー・クリシュナを演じたのは、日本公開作「チャーリー(Charlie / 2015年マラヤーラム語版)」、CS放送作「バンガロール・デイズ(Bangalore Naatkal)」、映画祭上映作「ウィルス(Virus)」などに出演している女優パールワティ(・ティルヴォトゥ)。この時は、同年公開作「Out of Syllabus(アウト・オブ・シラバス)」で映画デビューしたての10代で、後の映画のような目を引く美貌や貫禄にはまだ乏しいもの、演技はすでに一級品。真面目さを表現する硬い表情の微妙な変化具合、その頭が良いが故に友達を見捨てられず、それでいながら大事な所で裏切ってしまう悲しき友情の姿をしっかりと演じ切ってくれる姿は一見の価値あり。正にトンデモね!

 監督を務めたローシャン・アンドリュースは、1975年ケーララ州トリチュール県都トリチュール(現トリッシュール県都トリッシュール)生まれ。
 2005年のマラヤーラム語映画「Udayananu Tharam(スターのウダヤン)」で監督&脚本&原案デビューして、ケーララ州映画賞の新人監督賞を獲得。続く06年の本作で多くの映画賞を獲得して話題を呼び、以後マラヤーラム語映画界で活躍中。15年には、監督作「How Old Are You?(何才でいらっしゃいますか?)」のタミル語リメイク作「36 Vayadhinile(36才になって)」でタミル語映画監督デビューもしている。
 06年のカマル監督作「Pachakuthira(キリギリス)」で本人役で映画出演している他、19年の監督作「Prathi Poovankozhi(被疑者:雄鶏)」では主演デビューもしていたりする。

 しかし、映画中盤の大事件発覚によって寄宿学校の女子高生日常劇は崩壊し、シュリーの妊娠をなんとかして"無かった事"にしようと画策する中で、主人公3人の友情に亀裂が入り、厳しい先生たちに発覚したなら退学必至と言う恐怖との戦いの中、事実の確認、子供達だけで堕胎手術の手配と涙ぐましい試行錯誤が続く、信用できる大人や同級生のいない(それは、関係者であるシュリーの恋人スーラジであっても例外でない!)子供達の孤軍奮闘ぶりが悲しく、切なく、かつ愚かな姿として描かれていく危うさよ。
 そのために、学校生活の様々なところで齟齬が生まれ、将来の進路と言う人質を握る教員たちのメンツ重視の姿を見れば見るほど、妊娠の事実が発覚した場合に予想される破滅の信憑性が高くなっていく、大人社会への絶望感も計り知れない。
 永遠の友情の名の下に、シュリーに高校生活を全うして欲しいと願うセイラーとプージャーの涙ぐましい努力は、結局のところ悔恨著しい亀裂を残し、それだけが高校生活の思い出として残ってしまう辛さが、時の経過とともにノスタルジーの中へと吸収される別の悲しさを生んでいくのも、インド文法における物語的感情表現のなせる技か。

 最後の最後、プージャーのリハビリにスーラジが関わって来るまでスーラジ自身が後半の物語からはじき出されているのも、意図的な物語の配置ポイントで、女子3人の友情の回復を持って周りにいた大人たちや男友達たちの近況が見え始める、登場人物をめぐるその背景描写の見え方も注目どころ。冒頭の3人だけでの誓いが、映画ラストへのリフレイン効果を狙った構図なのはあからさまなのに、そこへと到達する数々のエピソードによってたくさんの傷を負ったセイラーたちが、再び友情の木にたどり着く人生観の詩的美しさは、他には変えられない本作特有の輝きでありますわ。

 


挿入歌 Iniyum (この沈黙はなに?)

*シュリーデヴィの妊娠の事実が発覚したものの、セイラーとプージャーにしか打ち明けられないまま、親にも恋人スーラジにも言えずにいるシュリーデヴィの苦悩。スーラジに打ち明けようとした直前にセイラーたちに止められてしまったシュリーデヴィのどうしようもない苦しさを現すように、突然の雨が皆を沈黙させていく…。

 


受賞歴
2006 Kerala State Film Awards 次席作品賞・衣裳デザイン賞(B・サイ)
2006 Filmfare Awards South 作品賞・助演女優賞(ロマ・アスラーニー)・監督賞
2006 Asianet Film Awards 新人男優・オブ・ジ・イヤー賞(スカンダ・アショク)・新人女優賞・オブ・ジ・イヤー賞(ロマ・アスラーニー)

 

 

(。・ω・)ノ゙ Notebook を一言で斬る!
「新年祭から2ヶ月で新学年とか言ってるってことは、劇中の学校は3月か4月から新年度ってことかしらん?(それともただ単に新学期ってだけ?)」


↓こちらも参照くださいな。
インド映画夜話