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Adipurush (ラーマーヤナ : はじまりの伝説) 2023年 179分
主演 プラバース & サイーフ・アリ・カーン & クリティ・サーノーン
監督/製作/脚本 オーム・ラーウト
"祝福せよ、善こそ悪を滅せん"

 

 

 ー偉大なるインドの歴史において、聖なるラーマの物語こそ幾劫にも歌われる崇高なるもの。数多の人々がラーマを思い、語り、描き続ける。偉大なるラーマよ、永遠に讃えられんことを…。
**************

 遥かな昔。
 ランカー島の羅刹王ラーヴァナ(別名ランケーシュ。ランカー島の主の意)は、激しい苦行の末に創造神ブラフマーから「昼も夜も、水中も空中も地上であっても、神にも悪魔にも殺されぬ身体」を与えられ、十頭の魔王となることを認められた。

 その数年後。
 王位継承の争いから、森への14年間の隠棲を受け入れていたコーサラ国王子ラーガヴァ(ラグ王家の息子の意。別名ラーマ)と、その妻ジャーナキー(ジャナカの娘の意 *1 別名シーター、マイティリー、ヴァイデヒー、ブーミジャー等)、弟シェーシャ(別名ラクシュマナ *2)はその日、ラーガヴァを誘惑しようとして拒否された羅刹女シュールパナカーが、傷つけられた顔の恨みから、シーターの息の根を止めようと襲いかかってくるのを撃退した。
 シュールパナカーは、この侮辱を兄ラーヴァナに訴え、苦行僧に扮するラーヴァナは一計の元にラーガヴァ兄弟不在の中でジャーナキーを奪い去ってしまう…!!


*1 ジャナカとは、シーターの父親で、ミティラー王国(現在のウッタル・プラデーシュ州~ビハール州~ネパールの南東部を領土とした古代インドの国)の王の名前。その中心地であったらしいジャナカプル(現ネパールのマデシ州都でありダヌシャ郡都でもあるジャナクプル)に由来する王の称号と考えられる名称。叙事詩では、ジャナカがそこで祭壇を建設する際に、鋤で掘った穴の中から現れた赤ん坊を発見し養子に迎え入れたと言われている。
*2 シェーシャは蛇の王、蛇類の神の意。漢訳名 舎沙。時に、無限竜アナンタと混同されて、アナンタ・シェーシャとも呼ばれる。
 ヴィシュヌが最初に生み出した原初の存在で、ガルーダと並ぶヴィシュヌの乗騎。一般にはラーマ兄弟は全てヴィシュヌの転生とされるが、一説にラクシュマナはシェーシャの転生とされてもいる。

 

 

プロモ映像 Huppa Huiya

 


ニコニコ タイトルは、ヒンディー語(インドの連邦公用語で、主に北インド圏の言語。フィジーの公用語の1つでもある)で「最初の男」の意とか。神話時代に、悪を滅し善の勝利へと導いたラーマを讃えた言葉?(あるいは、神から不死の身体を認められた、ラーヴァナの事を指す用語とも思える…のは、穿ち過ぎ?)

 インドを代表する叙事詩「ラーマーヤナ」を映画化した、神話映画大作(監督曰く、1993年の日印合作のアニメ映画「ラーマーヤナ ラーマ王子伝説(Ramayana: The Legend of Prince Rama)」のリメイクを作りたかった、というのが企画の始まりだそうな)。同時製作で、テルグ語(南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語)版も公開されている。
 インドと同日公開で、アラブ、オーストラリア、ブラジル、カナダ、ドイツ、フィンランド、アイルランド、クウェート、ロシア、シンガポールでも公開されているよう。

 これはあれですね。
 インド映画においてのVFXがどこまで魅せられるかを試す見本市としての映画ですね。
 雄大な背景やギミック過多な小道具類、光線エフェクトや煙幕的なものを派手派手に組み込んで「CGだけで、こんだけ作れるんでっせ!」とでも言いたげな画面構成になっているんだけど、肝心の芝居の組み立てが弱いので劇としてはあんま面白くない……と言う、CG特化映画の弱点そのままが浮かんできてしまう映画になっている感じ。
 未見だからわからないけど、フル3Dでラジニ&ディーピカの3Dモデルを動かしてた2014年のアニメ映画「Kochadaiiyaan(たてがみの王)」と同じ路線の映画、と思っていいだろかどうだろか。

 ラーガヴァとジャーナキー(=ラーマとシーター)の結婚~森への追放を冒頭の歌で描いて、ラーヴァナのシーター誘拐から始まる物語構成は、なんとか1本の映画の中で完結させるための苦心の跡が見えるようではあるけれど、たくさんの映画スターを起用してるわりには登場人物たちの感情表現が乏しく、会話が劇の進行とシンクロしないままただ流されていってるよう。見せ場であるアクションも、VFX的エフェクトを見せる事にこだわるためか、役者自体の動きにキレがなく鈍重な印象。「バーフバリ(Baahubali)」であれだけ美麗なアクションを演じたプラバースにして、しかめっ面で仁王立ちしてる姿ばかりが印象に残るのが、芝居の段取りがうまくできていない印象を助長させてしまう。
 武器デザインと言い衣裳デザインと言い、悪役たちの「悪そうな」ヴィジュアルデザインと言い、叙事詩的というよりはゲーム的かアメコミヒーロー的で、ヒーロー映画として作ってやしないかという疑惑もあり、そっちならもっと振り切っても良かったんじゃないか、とか思えてもくるのは観客側の贅沢ですかねえ…。

 監督を務めたオーム・ラーウトは、1981年マハーラーシュトラ州都ボンベイ(現ムンバイ)生まれ。
 母親ネーナ・ラーウトはTVプロデューサーを、父親バーラト・クマールは記者兼作家でラージヤ・サバー(インドの連邦議会の上院)会員をしていて、祖父J・S・バンデーカルはドキュメンタリー映画作家兼編集者だった。
 子役として、いくつかの舞台やCMに出演していた中、1993年のヒンディー語映画「Karamati Coat」で映画&主演デビュー。その後は学業を優先し、電子工学の学士号を取得して米国留学して、映像ヴィジュアル&パフォーミング・アートを修了してから、ニューヨークのケーブルチャンネルMTVネットワークにて脚本家兼監督として働き出す。
 インド帰国後、映画製作・配給会社DARモーション・ピクチャーズのクリエイティブ・ヘッドに就任。2010年のヒンディー語+マラーティー語(西インド マハーラーシュトラ州の公用語で、連邦直轄領ダードラー・ナガル・ハヴェーリー及びダマン・ディーウの公用語の1つ)映画「City of Gold 」で製作総指揮に就任。翌2011年の「Haunted – 3D(憑依-3D)」でプロデューサーを務め、その後、母親と共同設立したネーナ・ラーウト・フィルムズ製作の2015年のマラーティー語映画「Lokmanya: Ek Yugpurush」で監督&脚本デビュー。フィルムフェア新人監督賞他を獲得している(この映画は、母親のプロデュース作でもある)。続いて2020年の「Tanhaji」でヒンディー語映画監督デビューを飾り、年会最大興行成績と共に、フィルムフェア・アワード監督賞他多数の映画賞を受賞。本作が3本目の監督作にして、初の2言語(ヒンディー語とテルグ語)同時製作監督作となった。

 企画始動からいろいろな噂が世間を飛び交い、予告編解禁から複数の宗教団体からクレームや妨害が入り何回も訴訟される騒ぎに巻き込まれてる所なんかは、日印合作のアニメ「ラーマーヤナ」の舞台裏とも通じる、インドにおける叙事詩映画を巡る保守的な世相が見えてくる感じではある。
 そうした問題への対処故か、映画は舞台演劇的に大仰でもったいつけた台詞回しが多用され、場面場面ごとにハッキリと舞台が分かれ、複雑な感情表現や並列描写などが廃される分かりやすい見せ方を終始徹底している感じではある。そういう意味では、舞台演劇としてのラーマーヤナに近づけているとも言えるかもしれないけど、CGをこそ武器ですよと見せつける数々の映像効果は、気合の入り方は半端ないのは伝わってきつつもどこか叙事詩世界とうまく噛み合ってないアンビバレンツを起こしていて、特に後半のランカー島が「ロード・オブ・ザ・リング(The Lord of the Rings)」のモルドールっぽいイメージで描かれる事もあって「インド的」な要素も「超古代的」な要素も消えてしまってる感じなのが悲し(ランカーの部下である羅刹たちのデザインも、どこかLOTRのオークを彷彿とさせるもんでさ…)。ある程度、インド叙事詩映画としてのオリジナリティが見えるようになれば、より面白さがますかなあ…とか思うんだけども、そうなるとそれで現地のインド人たちが怒り出す負の連鎖が起こるのかねえ…。メンドくさい事でありますよ。

 妙な脚色が許されないってインド世論を意識するなら、役者たちへのプレッシャーも相当だったんだろうなって気もするけど、わりと顔で勝負する映画スターたちはそのままのイメージを保ったまま演じてるようには見える。ラーヴァナ演じるサイーフなんかは思い切りヴィランを楽しく演じてる風にも見えてくるけど、こういう大仰演技の似合う人でもあるのねえって感じ。これもオーム・ラーウト監督の前作にあたる「Tanhaji」への出演で息があったのか、アピールした成果なのか。物語的には特にラーヴァナを深掘りしようとはあんま思ってなさそうなこの映画の中で、結構な割合で見せ場をかっさらって行ってましたわ。ええ。主人公演じるプラバースが割を食っちゃったんじゃなかろかと思えるほどには…。

プロモ映像 Ram Siya Ram

 

 

 

(。・ω・)ノ゙ Adipurush を一言で斬る!
「ジャーナキーが捉えられていたランカーの庭に生えてたピンク色の樹々は…桜?(儚さの象徴みたいに、散った花びらが印象的な撮り方されてましたけど)」


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