小沢慧一「南海トラフ地震の真実」★★★★★
正月の輪島での大地震のニュースを見て家族と話した。「マグニチュード8~9クラスの南海トラフ地震が30年以内に発生する確率は70~80%もある」という巨大地震のリスクの言説についてである。今回は大丈夫だったけど我々も必ず大地震にあうだろう。
この言説が真実であることを全く疑っていなかった。この本を読むまでは。
もうお笑いである。この言説の根拠は(途中の論理は省くと)最終的に、四国のある港(室津港)のたった1地点の地面隆起の測定値の変遷を根拠としており、その測定方法は古文書に書いてないので不明であるが、おそらく船から棒を海中に入れるとか、重りをつけた紐を海中に入れるとかいう原始的なものであった筈で、しかも、その港(室津港)は地震が起きるたびに(港として機能させるために)隆起した地面を工事していたというのである。
根拠の測定値の信用度が零である。
著者は、このお笑いが起きた経緯を丹念に調べて、その言説が全くのインチキであることを証明する。
でもね、今でも、気象庁のホームページには、このインチキ言説が、南海トラフ地震関連解説情報として掲載されている。何なんだ、この国は。
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南海トラフ地震の真実
小沢 慧一【監修】
内容説明
「南海トラフは発生確率の高さでえこひいきされている」。ある学者の告発を受け、その確率が特別な計算式で水増しされていると知った記者。非公開の議事録に隠されたやりとりを明らかにし、計算の根拠となる江戸時代の古文書を調査するうちに浮かんだ高い数値の裏にある「真実」。予算獲得のためにないがしろにされる科学―。地震学と行政・防災のいびつな関係を暴く渾身の調査報道。科学ジャーナリスト賞で注目のスクープを書籍化!
目次
第1章 「えこひいき」の80%
第2章 地震学者たちの苦悩
第3章 地震学側vs.行政・防災側
第4章 久保野文書を追う
第5章 久保野文書検証チーム
第6章 地震予知の失敗
第7章 地震学と社会の正しいあり方は
著者等紹介
小沢慧一[オザワケイイチ]
1985年生まれ。2011年、中日新聞(東京新聞)入社。横浜支局、東海報道部(浜松)、名古屋社会部、東京社会部司法担当などを経て、同部科学班。20年に連載「南海トラフ80%の内幕」で「科学ジャーナリスト賞」を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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