✡6✡デートのつもりではありません①
✡✡✡
お仕事がお休みである私の今日一日の予定はと言うと、
キバナ君のお箸やお洋服、
それから、日常生活に必要なものを買い揃える為、
私が勤務する業務スーパーがある駅へ電車に乗って移動。
そして、多くの人が賑わうステーションへとやって来て、
駅員さんに二人分の切符を渡すと、改札口を出た。
「菫。最初、何処に行くんだ?」
「えっと、日常生活に必要なものから揃えないといけないから……
まず、この下の階のニャッツから行こ」
「ん、了解」
ホントはエスカレータに乗ろうとしたんだけど、
お兄ちゃんのお洋服とあのパーカーを着てるとは言え、
モデルさんみたいにカッコ良く着こなすキバナ君を見るなり、
通行人の足を止めて、注目を集めてしまったら、少々厄介かも。
只さえ、存在感が半端ないって言うのに。
そんな訳で人目につかない階段を使って、目的地へ向かうことに。
因みに、そのニャッツは100円ショップの名前で、
私が務めてる業務スーパーから、少し離れた場所にあるんだ。
(それにしても……)
私の視線は自分の右手へと向けられた。
また置いていかれたら、俺様が困ると言う理由で、
キバナ君と手を繋いでるんだけど……。
普通の人に比べたら、私は歩くの早いと自覚してるし。
昨日みたいに、キバナ君の歩くペースに
合わせるつもりでいたんだから、
別に手を繋ぐ意味なんてないじゃないのかな?
それに私はキバナ君の彼女でも、何でもないもん。
流石に恋人同士に見られては、キバナ君に迷惑がかかると思って、
そこまで、オシャレとかしなかったし。
──でも、本音を言えば、可愛いワンピ着たかったなぁ。
最近ゲームばっかり遊んでたせいで、部屋の中に引き籠もってたし。
特に久し振りの外出だったから、
(……って、ダメだよっ!私ったらっ!)
今日はキバナ君のお買い物に付き添いに来ただけなんだ。
此処は我慢しなくちゃっ!
軈て、目的地に着くと、日常生活に必要なものを
買い物カゴの中にぽいぽいっと入れていく。
事前にお兄ちゃんから男性に必要なものを
買い物リストに書いてくれたお陰なの。
後から、盾限定のポケモンを寄越せ、と脅されたんだけどね。
「一応、必要なものは入れたつもりだけど……、
足りないものがあったら、私かお兄ちゃんに言ってね?
仕事帰りにでも、買ってくるから」
「分かった。有難うな」
さぁ、次はお洋服だ。
支払いを済ませると、
ニャッツの隣にあるメンズ専門店へと移動することに。
実は、メンズ専門店のブティックに入るの、
ちょっと、抵抗があるって言うかなんて言うか……。
それに……、男性の下着見るのって、あんまり、よくないだろうし。
お兄ちゃんがいてくれたら、状況は変わってると思うんだけど……
彼氏がいない歴=年齢を重ねる私には、
これはハードルが高すぎる。うん。流石に無理なものは無理だ。
キバナ君には申し訳ないけど、此処は一人で行って貰おう。
「じゃあ、近くのコンビニで時間潰してるから。
終わったら、私のスマホに連絡してね」
ごゆっくりどうぞ、と回れ右と急いでその場から離れようとした瞬間、
何故か、ぱしっと腕を掴まれてしまった。
「ほえっ!? キバナ君っ!?」
この手を離して、と強く言い放とうとしたら、
「ダーメ。菫ちゃんも一緒に来て」
「で、でも……」
「あれ〜? 今日一日、俺様とショッピングデートだったよな〜?」
「で、デートっ!?」
キバナ君の口から出てきた“デート”と言うキーワードに反応した私は
まるで、顔から火が出るみたいにボンッと真っ赤に染めた。
何それっ!? 初耳なんだけどっ!?
と此処で、私達を見送った時のお母さんの顔が頭の中に過ぎった。
──行ってらっしゃ〜い。楽しんで来てね〜。
そう言えば、やけに嬉しそうに微笑んでたから、
もしかしたら、こういうことになるのを想定していたんじゃ……っ!?
道理でお母さんの様子がおかしかったんだ。
「わ、わ、わ、私はそんなつもりで、此処に来たんじゃないのっ!」
「え〜? なんで〜?」
「なんでって言われても」
第一、私達はそういう関係じゃないんだよ、と
言葉を述べようとしたら、
まるで、私の言葉を遮るかのように
キバナ君はとびきり可愛いヌメラスマイルを浮かべていて、
反論する隙すら与えてくれなかった。
狡いよ、そんな可愛い笑顔を見せて。
キバナ君の側にいたのが、偶々、私だったから良かったけど……。
それじゃ、間違いなく、勘違いされるよ。
──もしかしたら、自分に気があるんじゃないかって。
一応忠告するものの、何故か、キバナ君は聞き入れてくれず、
にこにこと笑みを浮かべるばかり。
逃げようにも手を握られてるし、
単独行動すら取れない私は渋々とブティックに入る羽目となった。
✡✡✡
一先ず、店内を一周したキバナ君は
お眼鏡に叶った洋服など手に取ってる。
それを私は黙って見ていたんだけど、
(ほえー……改めて見たら、洋服のセンスいいかも……)
モデルさんみたいと思ってたら、
──向こうでも、モデルの仕事してたし。
俺様とジムチャレの同期に、ルリナって言う水使いのジムリがいてさ。
そいつと一緒に、雑誌の表紙に載ったことあるぜ。
確かに、あの192cmある高身長じゃ……と思う。
キバナ君って、褐色肌の色男なんだけど、
笑うと笑顔が可愛くて、ちゃんとレディファーストをしてくれて、
それから、バトルも強くて、ポケモン思いの優しいガラル紳士。
あの容姿なら、何処に行っても、絶対モテるよね?
(キバナ君と付き合う女の人って……どんな感じかな?)
気になったので、私なりに考えてみる。
あのキバナ君の隣に立つんだから、
きっと、モデル並みのスタイルがいい美人系と言ったら、
ルリナさん? いや、可愛い系とか?
例えば、pixivで見るキバユウのユウリちゃん。
そう言えば、キバナ君の世界にいるのかな?
でも、ベルデちゃんと言う女の子がいるみたいだから、
もしかしたら、ユウリちゃんは存在しないとか? その逆のマサル君?
うーん、その辺りは分かんないなぁ……。
と此処で、名前を呼ばれたことに気づいて、キバナ君の方を見ると、
こっちにおいで、と手招きをされたので、とことこと側に寄る。
「キバナ君、終わった?」
「んー……今の所はこんなもんだな……」
ほえ? 他にも欲しいのあったのかな?
こんな時、お兄ちゃんがいてくれたら、良かったのになぁ。
「此処以外のお店にも行く予定だし、
そんなに慌てなくても大丈夫だよ」
時間はたっぷりあるし、此処が気になるんだったら、
また寄ろうよ、とそう言うと、
それもそうだな、とキバナ君は納得してくれた。
お会計を済ませて、ブティックを出ると、
次は駅の外にあるアーケード街の古着屋さんに向かう為、
一階のロビー広場まで階段で降りると、
不意に甘いお菓子の匂いが鼻孔を擽った。
丁度、マカロンやクッキーなどの出来立てのお菓子を販売するお店に
数多くの天然石を扱ったパワーストーン専門店が来ていた。
「キバナ君、ちょっとだけ、見てもいいかな?」
前から、欲しいなぁって思ってたんだよね。
パワーストーンのブレスレット。
私のお母さん、黒のパワーストーンを手首に付けてるし。
「折角だから、見に行って来いよ。
あ……そう言えば、買い忘れあったんだ。俺様」
あれ? さっき、お店出た時、買い忘れない? って、
ちゃんと確認取ったのに。何を忘れたのかな?
「キバナ君、お金の使い方分かる?
一緒に行こうか?」
「平気、大まかなことは葵さんから聞いてるし」
俺様一人でも行けるぜ、とぽんぽんと頭を撫でてくれた。
キバナ君のおっきな手で撫でられる度に、
──心の奥が擽ったく、穏やかな気持ちになって、ふわふわとなる。
相手が、キバナ君だからかな……?
他の人にも頭を撫でて貰うことあるけど、
不思議なことに、今みたいな気持ちにはならないんだよね。
なんでだろ?
「お買い物終わったら、此処で待ってるね」
「ちゃんといい子で居るんだぞ?」
キバナ君のこの様子からすると、
私って絶対にお子様扱いされてるよね?
確かに童顔に見られるせいで、
実際の年齢より、凄く幼く見られてるし……
それでも、キバナ君より、二つ年が上なんだけどな、と
心の中で呟きつつも、不服そうにしてると、
それを見たキバナ君は可笑しそうに笑みを零して、
私の機嫌を直そうとぽんぽんと頭を撫でてくれた。
「すぐ戻るから」
「うん、行ってらっしゃい」
一先ず、壁に飾られてある時計の下で待ち合わせしようと約束した私は
何を買い忘れたのかは知らないけど、
二階へと向かって行ったキバナ君を見送るのでした。