✡デートのつもりではありません② | 黄花藤ラバナ

黄花藤ラバナ

キバナ様は
最愛の推しキャラ❦

✡7✡デートのつもりではありません②



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 キバナ君が戻って来るまでの時間を利用して、

 私は色んなお店を見て回ることに。

 ずっと、欲しかったパワーストーンのブレスレットを幾つか購入して、

 スマホやお財布に付けられる天然石ストラップを買ったり、

 クッキーなどのお菓子を買うことが出来て、ウルトラハッピー!


(お家に帰ったら、キバナ君とフライゴンに

 一緒にこのお菓子食べようっと!)


 今日のお買い物に大変満足して、

 るんるん気分で待ち合わせ場所へと向かったんだけど……、

 きょろきょろと辺りを見回しても、キバナ君の姿はなく。

 あれかな? お店の場所が見つからなくて、

 ダンデさんみたいに迷子になって、時間がかかってるとか?

 それか、綺麗な女性から声をかけられて……って、はっ!

 逆ナンの方が有り得るかも。

 キバナ君の容姿を見れば、誰だって声をかけたいって思うし。

 もしかしたら、追いかけ回されてる可能性だって……、

 急に心配になった私は肩に提げてたバッグからスマホを取り出し、

 連絡を入れようとしてたら、


「ねぇ、そこの彼女ー?」


 突然、私と同じぐらいの年齢の、

 ちょっと、チャラそうな男の人に声をかけられた。

 もしかして、誰かと間違えて、と周りを見ても、私しかいなかったら、


「ほえ? 私ですか?」


「そ、今一人?」


 キバナ君を待ってるから、別に一人じゃないけどなぁ……

 取り合えず、買い忘れたキバナ君を待ってることを話した。


「ふーん……。だったらさ、そいつが戻って来るまでの間、

 俺と外にあるカフェに行かない?」


 ひょっとして、ナンパされてる?

 私、そこまでオシャレとかしてないし、普通の格好なんだけど……。

 なんで、話しかけてきたのかな?

 童顔に見られるせいで、言い寄って来る男の人なんて、

 今まで居なかったのに。


「結構ですよ。もう少ししたら、キバナ君が戻って来るので」


「そんな冷たいこと言わないでよ。

 君を一人にした男なんか放って置いてさ。俺と行こうぜ」


 どうしよう、全然私の話を聞いてないみたい。


「そいつより、俺の方がイケてるだろ?」


 相手に失礼かもしれないけど、

 キバナ君の方がとてもカッコ良くて、素敵なガラル紳士だもん。

 行きません、と何度も断ったのに、中々引き下がろうとしない。

 それ所か、逆に私との距離を縮めようと詰め寄ってきた。


「あ、あの……っ!」


「へぇ……、間近で見たら、君って超可愛いんじゃん。

 スタイルもいいし……これはかなり期待出来そう。じゃあ、行こうぜ」


 下心があるような視線を私に向けられた瞬間、

 身の危険を感じて、逃げなきゃいけないって、

 頭の中では分かってるんだけど……、

 でも、此処で待ってるって、

 キバナ君と約束しちゃったから、離れる訳にもいかないよ。


「わ、私は行くなんて、一言も」


 まさか、自分がナンパされるなんて思ってもみなかったし。

 出来ることならば、関わりたくない。

 そう思った私は勇気を振り絞って、言い返してみたら、


「ちっ……一々、煩せぇな。

 さっさと来いって言ってんだろっ!」


 自分の思い通りにならないと気が済まないタイプなのか、

 今にも掴みかかりそうな勢いと怒鳴り声のせいで、

 思わず、足が竦んでしまう。

 当たり前だ。向こうは男の人で、私より力がある。

 すると、怯んだ隙を狙って駅の外に連れ出すつもりみたいで、

 私の腕を掴もうと手を伸ばしてきて──。


(やだ……っ、怖い……っ!)


 私の中で恐怖心が強く渦巻いてるせいで、

 助けを求める声を出せずにいると、


「──嫌がってるレディに、そんな口説き文句は通用しねぇぜ」


 頭上から低音の声がしたかと思いきや、

 ぐいっと肩を抱き寄せられて、

 それと香水じゃないけど、お日様みたいな優しい匂いがふわりと漂う。

 ふと目を開けると、

 涙で溢れそうになった私の視線に見慣れたパーカーが映る。


「悪い、遅くなって。色々手間取ってさ……」


 もしかして、急いで来てくれたのかな?

 キバナ君の息がちょっと荒かったけど……。

 それよりも、今は頼もしくて、騎士みたいにカッコ良く見えるよ。

 ぽろぽろと零れ落ちる涙を拭おうともせず、

 目の前の人にしがみつく。


「キバナ君っ!」


 私の行動に吃驚したのか、キバナ君は驚きの色を隠せなかったけど、

 この状況を逸早く理解すると、

 蹌踉めくこともなく、私の身体を優しく受け止めてくれた。

 こっちに来てからでも、

 お兄ちゃんと一緒に自宅でも出来る簡単な筋トレに

 ストレッチをして身体を鍛えてるもんね。


「ひっく……キバナ君……っ」


「御免な、一人にさせて」


 助けに来てくれたから、もういいよ、と言おうとしたんだけど、

 私の中で恐怖心が渦巻いてるせいで、喉の奥から声が出てこなかった。

 伝えられない代わりに、首を横に振る。


「てめぇ……っ!

 いきなり、割り込んで来やがってっ! 邪魔すんなっ!」


「──そっちこそ、よくも、俺様の大切な宝を泣かせてくれたよな。

 どう責任を取ってくれるんだよ?」


「…………っ」


 キバナ君が見せた睨みで、ナンパ男は一瞬にして黙り込んでしまう。

 ──まるで、逆鱗に触れたドラゴンが見せる鋭い眼光のように。


「菫、お前の知り合い?」


 ちゃんと言わなくちゃ。全然知らない人だって。

 そう思っていても、恐怖で言葉が上手く出せずにいると、


「大丈夫。ゆっくりでいいから、な?」


 泣きじゃくる私を落ち着かせようと、

 とんとんと優しい手つきで背中を叩いて、あやしてくれた。

 そのお陰で、ちょっと落ち着きを取り戻せたかも。


「し、知らない……。

 外にある……カフェに……、行こうって…………いきなり、誘われて」


「へぇ~、カフェに……、ね」


「此処で待ってるって、キバナ君と約束してたし……

 怖かったけど、ちゃんと断ったの……、そしたら…………っ」


 あんな風に怒鳴り散らされて、と途切れ途切れな言葉でも、

 キバナ君はちゃんと私の話を聞いてくれた。


「そっか……、そいつは怖かったな?」


 もし、キバナ君が来てくれなかったら、とそう考えてしまい、

 また目頭が熱くなり、じわりと涙が溢れてきた。

 こんなことで泣きたくないのに、と心の中で呟いてたら、

 私の不安を取り除こうと、

 ぽんぽんと頭を撫でるおっきな手の温もりを感じて、

 涙目で見上げると、私と目が合ったキバナ君は

 にぱぁとヌメラスマイルで笑いかけてくれたんだけど、


「そういうことだからさ…………」


 視線を正面に戻すなり、瞬く間に表情を変えてしまった。

 普段はタレ目なのに、

 今から、バトルをするようなキリッとしたツリ目で

 ナンパ男を見据えてる。

 さっきもそうだったけど、ギャップが凄い。


「──いいか、二度と俺様の大切な宝に近づくんじゃねぇ。

 次は……タダじゃ済まねぇからな」


「ひぃ……っ! す、す、すいませんでしたーっ!」


 キバナ君の迫力にビビったナンパ男は

 情けない悲鳴を上げながら、逃げて行っちゃった。

 確かに、キバナ君って身長高いせいか、威圧感が半端なかったし。

 私も最初の頃、ちょっと怖かったけど……、

 キバナ君が見せるあのヌメラスマイルで、

 帳消しにしてくれたから、ビビらなくなったんだよね。


(折角、キバナ君が助けてくれたのに…………)


 有難うって、お礼すら言えてないよ。私。



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 ナンパ男がいなくなったのを見たキバナ君は

 あんな目に遭った私の気持ちを落ち着かせようと、

 ずっと、あやしてくれた。


「……菫、ホントに御免な。何もされなかったか?」


「…………大丈夫だよ」


 平気であることを伝えたんだけど、嘘付くなって言われちゃった。


「あんな奴に言い寄られて怖かっただろ?」


「……うん」


「また、声かけられたらさ、さっきみたいに俺様が護ってやるから」


 安心しろ、とおっきな手で頭を撫でてくれた。


(キバナ君に撫でて貰うの、凄く安心するなぁ……)


 それまで、私の中に巣食っていた恐怖心が段々と薄れていくと同時に

 心臓の音がドキドキと鼓動し、軈て体中に響き渡っていった。

 あ、あれ? なんで、こんなにドキドキするのかな?

 頬っぺたも熱く感じて……。

 未だに初恋も恋愛も体験したこともないし……、よく分かんないかも。

 暫く、私の気持ちが落ち着くまで、頭を撫でてくれたんだけど……。


「菫、顔上げて」


 頃合いを見計らって、撫でるのをやめたキバナ君に名前を呼ばれ、

 なあに? と顔を上に向けたら、


「がおーっ!」


 右手と左手を顔の横に持ってきて、

 相手を威嚇するようなポーズを見せてきた。

 一瞬きょとんとしたけど、ナンパ男を追い払った時と

 今とのギャップの違いに気づいて、くすっと笑みを零しちゃった。

 こんな間近でがおーっポーズなんて。

 お兄ちゃんがいたら、カメラ目線くれ、と写真一杯撮ってるかも。


「もぅ、キバナ君ったら……」


「……やっと、笑ってくれたな」


「ほえ? ……あ」


 さっきまでは、あんなに涙を流してたのに、

 それがいつの間にか、止まって……。


(励ましてくれたんだ…………)


「ほら、次の場所に行こうぜ」


 歩き始めようとするキバナ君のパーカーの裾を手で掴むと、

 引っ張られたことに気づいたキバナ君が肩越しで顧みた。


「どうした?」


 お礼はちゃんと言わなくちゃ。

 ナンパ男にしつこく声をかけられて、

 困ってる私をキバナ君は助けてくれたんだから。


「えっと、あの……さ、さっきは有難うね! 助けてくれて……」


「そりゃ、当たり前だろ? レディを守るのは。

 何と言ったって、俺様は」


「ポケモン思いの優しいガラル紳士だもんねー?」


「分かってるなら、宜しい。

 それに……さっきの菫ちゃんは

 ウールーみたいにプルプル震えてて、可哀想だったからな」


 何それ、私はウールーみたいにメェ~って泣いてないもん!


「むぅ~っ! 一言余計だよっ!」


「よしよし、言い返す元気があるんだから、もう大丈夫だな」


 何がともあれ、ナンパ男を追い払ってくれたキバナ君と

 一緒に駅を出て、次の目的地へ向かうことに。


「そう言えば……、買い忘れたとか言ってたけど、

 ちゃんとお店に行けた? 迷子にはならなかった?」


 無事に買えたかどうか気になったので、

 私は歩きながらキバナ君に訊ねる。


「あのな、俺様を誰だと思ってんだ?」


「えっとね、ガラル地方最強ジムリで

 ドラゴンストームと呼ばれてるキバナ君です!」


「はいはい、大正解。良く出来ました。偉いな、菫ちゃんは」


 おっきな手が私の頭を撫でてきたかと思えば、

 そのまま、わしゃわしゃと掻き回してきた。


「ほえ〜っ! 髪がぼさぼさになるから、やめてよっ!」


「俺様みたいな色男から、よしよしされるなんて、滅多にねーぞ?」


「私はお子ちゃまじゃないもん!」


 なんか、午前中だけでも、キバナ君に撫でて貰うの多いかも。


「方向オンチのダンデと違って、俺様は迷子にならねーよ。

 それに目的の物はちゃんと買えたから……、ご心配なく」


「そっか、良かったね」


 何を買ったのか、ちょっと気になったけど……。

 私には関係ないもん、と

 ぼさぼさになった髪を手櫛で直しながら、そう考えた瞬間、

 “ずきり”と胸の奥で何かが疼いたような気が。

 ほえ? 何だろ? この胸の痛みは?