8/19(日)⑤
ふくやま美術館やお城は駅のすぐ北側、西から近づくと案内が出ていないせいで通り過ぎてしまった。それに気がついて戻って見ると、反対側からならちゃんと表示がある。
福山城を含む公園は広く、緑がいっぱいだ。美術館の駐車場はすでに満車で行列、こりゃ埒があかないなあ、と、城をぐるっと回ってさっき通り過ぎた稲荷神社の駐車場へ。お城は本当に駅の真ん前、高架の鉄道と石垣に挟まれた道を通り抜ける。果たして神社駐車場はがら空き、これなら咎められはしないだろう。
福山城を背景に
神社脇なら日陰もあるが、陽の光から隠れる場所が全くない広場では、フリーマーケット開催中。しかし、この暑さで辟易したせいか、すでに半分くらいの店が撤収しているようだった。向かいの運動公園ではテニスの試合、こんな中でゲームをしなけりゃならないなんて、選手がかわいそうなくらい。ともかく、日に照らされていると蒸発しそうになる、というのが大げさじゃないくらいの暑さに、すっかり参ってしまう。
美術館に入ってみるとバイオリン、チェロ、ピアノのロビーコンサート開催中、凄い人だかりだが、これなら駐車場が混んでいるのは無理もない。聴いてくれれば美術館は40円引き、という。どういうこっちゃ?コンサートの聴衆を増やす目的か。
ロビーコンサートを聴いて美術館は¥40割引
企画展は「平櫛田中」。この人の木彫は、何というか日本人、を感じさせる。木彫の伝統、ことに仏像に見られるような表現をすっかり消化、そして昇華しているから、というのは勝手な推測だが、当たっていなくもないだろう。近現代の彫刻家、というと大体はロダンやブールデルといったヨーロッパの巨匠の匂いがどこかに漂うが、この人の作品にはそれがない。真正面から写実に取り組んで、それを一歩超えたところに成立する、迫真の表現、とでもいおうか。初期の作品など、本当に、今にも動き出しそうなものがある。
代表作「鏡獅子」(東京新聞HPより転載)
代表作「鏡獅子」は国立劇場で何度か実物を目の当たりにしたことがあるが、今回の展示で、すっかり衣装を剥ぎとった、役者の肉体のみの作品が造られていたのを見ると、もの凄い研究を重ねた末に生み出された姿だということを、痛感させられた。一見、塊のように思われる、いわば単純化された造形に、所作の中に生まれる一瞬の間を捉えた動勢が宿るのには、そこに秘密があったのか、ということに改めて気づかされた。
迫真の肉体描写(出典不明)
常設展示を見た後、もらったチケットを手に、福山市書道美術館へ。
ここは明・清朝の作品が充実、確か日本書芸院の重鎮、栗原蘆水のコレクションを中心に構成されたものと、どこかで聞いた憶えがある。ただでさえ珍しい書道美術館だが、展示作品は予想以上に質の高いものだった。作品をひととおり見た後、水書き板が用意された臨書体験コーナーに。章子は陳鴻寿の隷書対聯が気に入ったらしく、一部を臨書したが、実にそれらしいものになった。やっぱりプロのデザイナーとして活躍した経験は侮れない。こういう人はつまらないお習字なんかやらずに、はじめから気に入ったものに取り組んだ方が才能を伸ばせるのじゃないだろうか。そうしてある時、気がついてからオーソドックスな古典に戻る、なんて学習法もありかも知れない。興味を持ったついでに、こども向けの書道史の本を購入する気になったみたい。実際に筆を執って書いてみる、という体験はやっぱり効果があるようだ。
書の心得があるわけでもないのに大したもの!
原本はこちら
ここで3時間の駐車券を頂いたが、テン場も決まっていない状態で、街歩きは難しかろう、と止める。うだるような暑さはまだ収まっておらず、それも理由のうちになかったとはいえない。
神石高原か井原あたりで温泉に、と考え、国道2号を東進、うまく入浴施設に当たらず、そのまま井原に入ってしまう。今度は井原温泉を目指すが、どういうものか、これも現れず。来た道で見つけたスーパーまで戻り、ここで夕飯を仕入れる。
そうこうしているうち、陽はとっくに沈んで、薄暮というほどの時刻になってしまう。林道の登り口に「経が丸キャンプ場・グリーンパーク」の看板が見つかり、これでダメなら万事休す、というところまで追い込まれた。すっかり暗くなってからではテン場探しは困難なのだ。これで見つからなければ、行きの一泊目にテン場をとった、琵琶湖畔の長浜まで走るか、というところまで考えたと思う。
ところが、よくしたもので、看板の示す通り山に踏み込んで林道をぐんぐん行くと、展望台にでもなりそうな、平らな草地が見つかった。少し上ったその先には廃業したらしい売店、そしてやっている気配のないキャンプ場だ。たぶん標高3~400メートルはありそうな高台である。
キャンプ場には全く人の気配がないが、炊事場の蛇口をひねるとあっけなく水が噴き出した。こんな幸運はちょっとない。行く先々で神仏に祈り、首なし地蔵を撫でた御利益か、と二人で小躍りした。ともかく、ここですっかり体を清めることが出来、温泉が見つからなかった分が取り戻せた気持ちになった。ただし、油断していると蚊にやられる。炊事場の貯留槽が発生源か、ここの蚊はみんなでかい。
ちょっと下がった、さっき見つけた草地に車を入れ、テントを張る。天気は持ちそうなのでフライシートは張らずにおいた。
下界の暑さがどこへやら、風が気持ちいい。スーパーで買ったステーキがメイン、ビールと赤白のワインで乾杯。ちょうど広島と岡山の県境くらいだろう、次にこのあたりに来たときにも使えるな、という手応え十分。快適なテン場は、我々にとって密かな財産なのだ。
※「阿も珍」は、2017年に広島へ行った際、別の店舗に寄った。空港からレンタカーを借りて鞆の浦へ向かう途中だったが、すっかりチェーン展開している大きな会社と思いきや、「阿も珍」は福山市内に3店舗あるのみ。運営会社は鞆の浦に本部を持つ「阿藻珍味」。海産物加工品の販売が主。
2012 山陰の旅第2弾 44につづく