2001年東北の旅7 盛岡の朝市・じゃじゃ麺 | 楢丁(YOUTEI) 旅の話

楢丁(YOUTEI) 旅の話

趣味で書きためた旅日記が、膨大な量になりました。2020秋に脳出血、2023には食道癌を発症と、様々なことが起こりますが、克服してまた旅に出たいという気持ちは変わりません。
お付き合い頂けたらありがたいです。どうぞよろしく。

2001年東北の旅 その7

 

 翌朝、自転車に跨り、下流に架かる南大橋をわたって盛岡の街を散策へ。ここは国道4号、幹線の大通りだ。橋を渡る前から気になっていたが、対岸の右手に煙が見える。渡りきる間に黒煙は勢いを増し、いよいよこれは火事に違いない。まだ消防車も出動していないが、道行く人は、足を止めて黒煙を指さし、あれはきっとどこそこだ、なんて話し合ったりなどしている。


 うーん、見に行ってみれば良かった、今にして思えば。だって、やっぱり火事といえば見ものでしょう、被災者には悪いけど。先を急ぐはずもない僕らだったが、このときはどうしてだか進路を変えることを思いつかなかった。


 国道4号を橋からものの1,2分も行かないうちに、左手に市場とおぼしき一画が現れた。一段低いところにあるので道路からは見下ろす恰好になるのだが、ここはガイドブックにも載っていない。実際に行ってみて納得、観光色はまるでなく、何列も長屋状にかけられたトタン屋根の下の、これは典型的な地元の市場と言っていい。自転車を入り口に止めて、人混みの中へ分け入ってゆく。

 

南大橋の左岸側にある市場。実は奥の空に火事の黒煙が上がっているのだが…


 うーん、いいです、こういう市場。雑貨屋さんから野菜、果物、花屋さん、サンドウィッチからコロッケまで。しまった、こんな事なら朝飯食べてくるんじゃなかった、と後悔先に立たず。


 めずらしい物を売っていた。盆林檎の札と共に盛られていたのは、姫リンゴの実だ。食べるんだろうか。あるいはお盆の飾りにでも使うのか。ズイキも里芋の根っこごと。揚げたてのコロッケというのも魅力的だったが、昼に盛岡でどうしても食べておきたいものがあり、ここではガマンと相成った。

 

これこれ。ずっとつづいているのはめでたい

 

 街の北東に岩山公園という小高い山の公園がある。地図で確認すると、てっぺんにはスキー場があるくらいだから、近郊の割には結構な山なのだろう。ガイドブックにはこの山の中腹に立つ盛岡橋本美術館が、ユニークな美術館として紹介されている。地図でみれば国道からせいぜい1キロ足らずに見えるが、現実には登りの勾配がきつく、自転車の身には結構こたえる道のりだ。

 

  やっと着いたと思い、自転車に鍵を掛け入り口へ向かうと、ドアに貼り紙。いやな予感は不幸にも的中し、この美術館は昨年度末ですでに閉館していたのだった。おそらくは入館客が思うように集まらず、採算がとれなくなったのだろう。個人美術館の悲しい末路である。美術館前の植え込みを掃いている、関係者とおぼしきおじさんは、こちらに気づいているのかいないのか、終始無言。


 こりゃ、あきらめざるを得まい。どうも、盛岡では美術館に縁が薄いようだ。


 行きの登りがきつかった分、帰りのダウンヒルは爽快だ。一気に国道まで駆け下りた。


 盛岡は神社、仏閣の多いところ。自転車で流しているとそれに気づく。城下町の故なのだろうか。天満宮、住吉神社、八幡神社と耳慣れた名のお社が現れるたびに立ち寄っては一応のお参りをしてくる。祈ることはいつも一緒。「旅の安全」と、もう一つは「世界平和」。ずいぶんレベルの違う内容だけれど、祈る本人は真剣だ。

 

たぶん、これが八幡神社


 寺町と呼ばれる一角がある。文字通りこの界隈にはお寺や神社が密集しているのだが、ここに、岩手の名前の元となった鬼の手形が残る神社があるという。結局、ここ三石神社には大きな岩があっただけで、かんじんの岩に残るという手形は確認できなかったが、寺町界隈には、行ってみてびっくり。もーのすごい大渋滞。今日は8月13日、お寺が繁盛する理由はここに書くまでもないが、これにはまったが最後、大げさじゃなく半日ぐらいつぶれそう。いやー、自転車大正解。

 

こっちは三石神社


 さて昼にどうしても食べておきたかったものとは「じゃじゃ麺」という盛岡名物。うどん状の麺の上に肉みそをのっけて、これを混ぜながら食べるという代物。日本版スパゲティーミートソースといった感じか。でも、実はこれを僕は昔、作ったことがあるのだ。


 今を去る20年ほども前、大学を出たばかりの僕は高校の非常勤講師をしながら夜間の中国語の専門学校に通っていた。途中で落ちこぼれてしまい、四声と発音以外はろくに習得も出来なかったので語るのも恥ずかしいが、このときの合宿で炸醤麺(ジャージァンミィエン)をみんなで作って食べたのだ。もうレシピはとうに忘れてしまったが、「じゃじゃ麺」はまずこれに相違ない。

 

 

 「盛岡の三大麺」という特集を複数の情報誌で目にしたことがある。「盛岡冷麺」「わんこそば」そしてこの「じゃじゃ麺」だ。それぞれに専門店がしのぎを削っているという内容。じゃじゃ麺は他二つに比べていかにも安い。わんこそばなら14~500円は覚悟しなければならず、冷麺だと700~1000円ほど、ところがじゃじゃ麺なら350円くらいから食べられるところがあるという。おもしろいのがその食べ方。ものの本によれば、すっかり食べ終わった後に「ちーたんたん」と、呪文のような言葉を言うとか。なんだ?その「ちーたんたん」とは。


 じゃじゃ麺専門店「香醤」は噂通り客でいっぱいだったが、幸いカウンターの席が空いていた。注文して待っている間に、「ちーたんたん」の正体はすぐに分かった。じゃじゃ麺は全部平らげても、器に付いた肉みそはどうしても残ってしまう。これをもったいない、と考えるのがそもそものはじまり。ここに卵を割り入れ、麺のゆで汁を入れてもらえばおいしい卵スープができあがる。「ちーたん」とは中国語で「卵」、「たん」は「スープ」を意味する言葉。とりあえず、これが分かる程度の中国語の知識しか僕は持ち合わせていない。


 いや、うまいです、じゃじゃ麺。盛岡冷麺よりこっちの方がいいと思う。関東にもこういう店があればはやるんじゃないかと思うが、でもそこに行かなければ食べることのできないもの、というのはあっていい。「麺の街」盛岡の認識を新たにした一杯でした。

 

 

※旧盛岡橋本美術館の活用については未だ、迷走している様子。こんなブログを見つけた。

 

へー、こんなことがあったんだという、市議会でのドタバタ劇

 

 

また、ひょんな事からかつての図録を手に入れた。

 

盛岡橋本美術館の図録

 

 

2001年東北の旅 その8につづく