プロトン移動を伴うイオン化におけるイオン化抑制現象 | 日本一タフな質量分析屋のブログ

日本一タフな質量分析屋のブログ

日本で唯一、質量分析に関するコンサルタント、髙橋 豊のブログです。エムエス・ソリューションズ株式会社と株式会社プレッパーズの代表取締役を務めます。質量分析に関する事、趣味の事など、日々考えていることや感じたことを綴っています。

LC/MS/MSを用いたバイオアナリシス(生体試料中の薬物濃度測定)において、エレクトロスプレーイオン化(ESI)において起こるイオン化抑制が問題になっています。ESIで他のイオン化法に比べてイオン化抑制が顕著に起こるのは、エネルギー供給が絶たれた帯電液滴からのイオン生成プロセスに原因の一旦があります。その解説は、会社ホームぺージのブログには書いていたのですが、こちらにはアップしていなかったようです。

 

 でその前に、ESI以外にもイオン化抑制現象が見られるイオン化がありますので、その事について書いておこうと思います。

 

 それは、プロトン移動を伴うイオン化に共通して起こると考えられます。具体的には、化学イオン化(chemical ionization, CI)、高速原子衝撃(fast atom bombardment, FAB)イオン化、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(matrix assisted laser desorption / ionization, MALDI)、大気圧化学イオン化(atmospheric pressure chemical ionization, APCI)などで起こり得ます。

 

それは、プロトン移動を伴うイオン化においては、プロトン親和力が支配的だからです。

 

 上で挙げたイオン化(正イオン検出)において、分析種(A)と夾雑成分(M)が共存していて、Mのプロトン親和力がAよりも大きかったと仮定します。そうすると、プトロンはMに優先的に付加して[M+H]+イオンが生成し易い環境になり、結果としてAにプロトンが付加する確率が低くなる(Aのイオン化が抑制される)ことになります。 

 
 

[A・・・H+・・・M]  ⇒ [M+H]+

 

 

 これが、プロトン移動を伴うイオン化におけるイオン化抑制です。負イオン検出で脱プロトン化分子が生成する時のイオン化抑制については、恐らく違うプロセスになると思いますが、それはまた別の機会に考えてみたいと思います。