質量分析の限界:サーモスプレーLC/MS | 日本一タフな質量分析屋のブログ

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日本で唯一、質量分析に関するコンサルタント、髙橋 豊のブログです。エムエス・ソリューションズ株式会社と株式会社プレッパーズの代表取締役を務めます。質量分析に関する事、趣味の事など、日々考えていることや感じたことを綴っています。

ウルトラマラソンランナー、日本一タフな質量分析屋、高橋豊です。


このシリーズでは、質量分析(MS)の限界と、それを克服するために開発されてきた様々な技術について解説しています。



不(難)揮発性化合物のMSのために、様々なLC/MS技術が開発されてきました。
Frit-FAB
パーティクルビーム



Frit-FABは、前職である日本電子オリジナルの技術です。

同時代に競合他社や海外(主にアメリカ)のサードパーティー(日本語では第三者、MS装置メーカーではなく周辺装置を開発している企業)で開発していたのが、

パーティクルビーム(PB)

であり

今日解説する

サーモスプレー(TSP)です。


Frit-FABには、MSへの試料導入量を1/200程度にまで減らさなければやらないと言う制限があった。


PBには、イオン化がEIやCIだったため、そもそもLCとの組合わせに軟があった。


TSPは、上記二つの問題点を克服した、当時としては唯一とも言える汎用的なLC-MSの技術でした。


私が日本電子で、LC/MSの販促支援として装置のデモンストレーションをやっていた頃、

暫くはFrit-FABしかもっていなくて

他社との販売競争に随分と苦労したものです。


TSPは、今後解説する予定の「大気圧化学イオン化」に似ています。



TSPの構造はこんな感じ。


LCは液体クロマトグラフ、MSは質量分析計の高真空領域を示しています。



加熱ネブライザーって書いてある部分で、1 mL/minで流れてくるLCの移動相溶媒を噴霧させます。


柔らかい材質の水道ホース、先端を摘まんで出口を細くすると、出てくる水の勢いが強くなりますね。


それと同じ原理で、更に熱を加えることで、加熱ネブライザー出口の直前までは液体だった移動相溶媒➕試料成分が、

加熱ネブライザーから、霧状になって凄い勢いで飛び出します。



その直後の気化菅で更に加熱されることで溶媒は完全に蒸発して、溶媒や試料成分は単分子状態になります。



放電電極とサンプリングオリフィスの間には、数kVの電圧がかかっていて、この間は雷が発生しているような状態になっています。

この雷に溶媒分子と試料成分分子が近づくと、

大量に存在する溶媒分子が雷のエネルギーを受けてイオン化し、溶媒イオンから試料成分分子へ電荷が移動して

試料成分イオンができます。



ここで、➕イオンが生成する条件では、サンプリングオリフィスにはイオンから見ると➖の電圧がかかっているので、


イオンはサンプリングオリフィスに引っ張られて、MSの高真空領域に進入、質量分析されます。


イオンにならない分子も当然あるので、それらは真空ポンプにより排気されます。



この技術のポイントは、イオン化室が真空ポンプで排気されていること。



溶媒の蒸気をばんばん排気しないといけないので、とても大きなポンプが必要でした。

ポンプへの負荷が大きいので、メンテナンスが頻繁に必要でした。



TSPは1990年代を中心に

かなり長い間

LC-MSの主流でしたが、



主には上記二つの理由で

後に登場する

大気圧化学イオン化(APCI)

に取って変わられる存在でした。



APCIはイオン化室が大気圧で、

それが良かったのですが、

当時はイオン化室も含めて

MS装置内部は真空でなければならない

と言うのが常識でしたから、



TSPは凄い技術だと思ったし

イオン化を大気圧中でやってしまおうと考えた人の発想は、更に凄いですね。



当時の日本電子でも

Frit-FABだけでは競争力が低かったので、

サードパーティーから購入したTSPで実験してみましたが、

MS装置本体との相性が良くなかったので、

一緒に販売するには至らなかったと記憶しています。



研究開発に携わった経験がある者としては、

一度でも良いから世界中で使われる技術を開発してみたいですよね🎵



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