限界10:質量分析計の巻その7、GC/MS(CI) | 日本一タフな質量分析屋のブログ

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日本で唯一、質量分析に関するコンサルタント、髙橋 豊のブログです。エムエス・ソリューションズ株式会社と株式会社プレッパーズの代表取締役を務めます。質量分析に関する事、趣味の事など、日々考えていることや感じたことを綴っています。

こんにちは!

ウルトラマラソンランナー、日本一タフな質量分析屋、高橋豊です。


このシリーズでは、私が質量分析を始めてから現在に至るまでの、質量分析計の性能の変化と、それに伴う限界の変化について書いています。


前回は、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC/MS) では分析できる試料(化合物)に限界があるという内容を書きました⬇
http://s.ameblo.jp/yutaka-ironman/entry-12109790597.html

この中で、化合物の揮発性の限界=電子イオン化(EI) のように書いてしまいましたが、それは正しくありません。


今回は、不揮発性化合物に対応したイオン化法について書くつもりでしたが、

先に、

揮発性があって且つEIでは分析できない

そう言う化合物に対するイオン化法について書いておこうと思います。

ここで言う

¨分析できない¨

とは、

化合物分子がイオン化の際に元の分子の質量を保てずに、壊れてしまうことを意味するとします。


この解説をするにあたって、

イオン化ポテンシャルの説明をする必要があります。

イオン化ポテンシャルとは、大雑把に言うと、

¨分子から電子1つを奪い取ってプラスイオンを生成するのに必要なエネルギー¨

となります。


有機化合物分子のイオン化ポテンシャルは、10 eV(エレクトロンボルト)前後です。

一方、EIで用いられる電子線のエネルギーは、通常70 eVです。

つまりEIでは、

有機分子のイオン化ポテンシャルに対して、7倍以上過剰なエネルギーが照射されることになります。


この過剰なエネルギーは、

分子から電子を1つ取り去るだけでなく、分子中の化学結合を切断するために使われます。


マススペクトルの解釈は⬇
http://s.ameblo.jp/yutaka-ironman/entry-12103607104.html

分子から電子が1つ取れたプラスのイオンを分子イオン、分子中の化学結合が開裂して出きる断片化イオンをフラグメントイオンと言います。

分子イオンからは元の分子の質量情報が、フラグメントイオンからは分子の部分構造の情報が得られます。


つまり、分子イオンとフラグメントイオンの両方が観測されると、色々な情報が得られるので、良い訳です。

ところが、分子中に結び付く力の弱い結合があると、分子イオンが観測されずにフラグメントイオンだけが観測されるということが起こります。


このような状況では、元の分子の質量情報が得られないので、困ってしまいます。


このような場合には、化学イオン化(Chemical Ionization, CI)という方法が有用です。

CIでは、アンモニアなどの反応ガスに電子線を照射してイオン化し、イオン化した反応ガスに気化した試料分子を衝突させることで

電荷移動やプロトン(水素原子から電子が1つ取れたプラスイオン)移動によって、試料分子がイオン化します。


CIは、EIに比べるとフラグメントイオンが生成しにくいので、分子の質量情報を得られやすいという利点があります。


EIでは分子質量情報が得られない化合物があるという限界が、CIの開発によってなくなった訳です❗


しかし、CIも試料分子を加熱気化させる必要があるので、不揮発性の化合物に対しては使えません。


次回以降、その問題を解決するために開発されたイオン化法について書いていきます。


ではまた~ルンルン


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