限界4-質量分析計の巻その1:群馬高専での質量分析との出会い | 日本一タフな質量分析屋のブログ

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日本で唯一、質量分析に関するコンサルタント、髙橋 豊のブログです。エムエス・ソリューションズ株式会社と株式会社プレッパーズの代表取締役を務めます。質量分析に関する事、趣味の事など、日々考えていることや感じたことを綴っています。

こんにちは!

今回から数回に分けて、私と質量分析との出会いから現在に至るまで、
質量分析計の遷移とその時々に感じた(今にして思う)限界について
書いてみます。

私と質量分析との出会いは、約30年前に遡ります。
群馬工業高等専門学校の5年生、卒業研究で物理化学の研究室
に入ったことがきっかけでした。

質量分析とは何か?
っていうのは、この記事に極簡単に書いています。
http://s.ameblo.jp/yutaka-ironman/entry-12081350071.html

担当の田島進教授はフラグメンテーション解析の専門家で、
先生の元で1年間勉強して興味を持ち、質量分析の世界に入りました。

因みにフラグメンテーションとは、質量分析計の中でイオンが開裂
することで、その様式や開裂した結果できた断片化イオンの構造を
解析する学問がフラグメンテーション解析です。

例えば、皆さんが(私も)好きなお酒。主成分は、エタノールです。

エタノールの分子式は、CH3CH2OH(数字は本当は下付)です。

質量分析計で、このエタノール分子に強力な電子線を照射すると、
分子から電子が一つはじき飛ばされて、CH3CH2OH+という+の電荷をもった
イオンができます。このイオンは、質量分析計で得られるマススペクトル
というデータ上では、46という数値で観測されます。

このエタノール分子イオンは、自身の内部エネルギーによって分裂し、
CH3+ (15), CH3CH2+ (29), OH+ (17)などの質量の小さなイオンに断片化
します(カッコ内は質量)。

この開裂は、分子構造の中の弱い結合が優先して切れて、且つ断片化した
イオンは有機化学的に安定な構造をもつので、未知の分子であっても、
質量分析においてフラグメンテーション解析することで、どのような分子
であるかを推測することが出来るということになります。

話を群馬高専時代に戻しましょう。

当時田島研にあった質量分析計は、最近の装置とは全く異なります。
30年も前ですから、当然ですね!

最近の装置はコンピューター制御が進んでいて、ボタン一つ押すだけで
殆ど自動で装置の調整から測定、解析まで、コンピューターがやって
くれるものもあります。データはデジタルで、PC画面上でマススペクトル
を見ると、質量値は自動的に割り当てられています。

昔の装置は、もちろんコンピューターなど使われておらず、操作は全て
手動、データはアナログです。マススペクトル上に現れたイオンの質量値は、
1つずつ自分で付けていきます。

質量分析計は、内部を真空に保つ必要があります。

最近の装置は、装置が大気の状態から測定可能な高真空の状態にまでするのに、
ボタン一つ押すだけで、自動制御でやってくれます。
真空ポンプの性能も高いので、装置によっては2時間位で使えるようになります。

昔の装置は、全て手動で真空状態をつくります。
5~6台はある真空ポンプの電源を順番に入れ、バルブを順番に空けて、
少しずつ真空度を上げていきます。
重要なのは、ポンプをオンにするタイミングと、バルブを開けるタイミングです。
これを間違うと、ポンプのオイルミストが装置内に流れ込んでしまい、使えなく
なります。

そうなると、私達学生で装置を全て分解、内部を有機溶媒で拭き上げます。
これで二日はかかります。
それから装置を1週間程かけて組み上げて、真空状態を作ります。
真空を引き始めてから測定できる真空度になるまで、3日間ほどかかります。

つまり、ちょっと操作を間違えてしまうと、次に使えるようになるまでに
2週間はかかる訳です。

最近の装置しか知らない人には、到底想像できないと思います。

昔の装置の限界は、最近よりはるかに低いものでした。

でも、その限界の中でできるだけのことをやってきました。

昔の質量分析計から、長い間現場で装置を触ってきた経験が、
今の仕事に確実に生きていると思います。

ではまた~♪

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