「応用脳科学」に基づいた簡単ダイエットとは | 勇者親分(負けず嫌いの欲しがり屋)

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 TEDの会議に参加するために、カナダのバンクーバーに来ている。

 TEDとは、技術(Technology)、教育(Education)、デザイン(Design)の略で、マイクロソフトの創業者のビル・ゲイツ氏や、ノーベル平和賞を受けたアル・ゴア元米副大統領など、著名人が講演することで知られている。最近では、NHKの番組「スーパープレゼンテーション」でその講演が紹介されているので、日本でも知る人が多くなった。

 私は、2011年からTEDに参加している。今年で4回目ということになる。昨年まではアメリカのカリフォルニア州のロングビーチで開かれていたが、今年から、バンクーバーに会場を移した。

 さて、TEDの内容は、今年も実にすばらしく、グーグルの共同創業者ラリー・ペイジ氏が、テクノロジーが開く未来の話をしたり、歌手のスティング氏がミニコンサートをしたり、きわめて濃密なプログラム。刺激を受けて、自分の脳が喜んでいるのがわかる。


脳科学者的ダイエットへのアプローチ
 さて、このコラムで書きたいのは、実はTEDの中身のことではない。

 私の体重のことである。

 バンクーバーに来る飛行機の中で、つらつらと考えた。前回書いたように、私は今体重が82キロで、学生時代の60キロから、1年に700グラムくらいずつ太ってきたことになる。

 健康のためには、やせたほうがいいに決まっている。どうしたら、やせるか。私は科学者であるから、論理的、かつ経験に基づくアプローチをとりたい。

 運動をしても、そう簡単にはやせないことはわかっている。その証拠に、私は小学校1年からずっと走り続けているが、全く体形に影響がない。カツ丼を1杯食べると、その分を減らすためには、かなり走らなくてはならないらしい。本当は、カロリーを計算して、何キロ(何分)走ればいいのかと、考えてみればよいのだろうが、それも、面倒くさい。

 ダイエット食品とかを食べるのも、面倒くさい。これがいい、これを食べるとやせる、これを飲むとやせると巷(ちまた)ではいろいろ宣伝されているが、個人的にはあまりつきあう気にならない。そもそも、食べることは人間の生きる喜びの根幹であって、やせるためだけに意に沿わぬものを食べるというのは、私の性分に合わない。


「空腹」ダイエットを思いつくが…
 そんなことを、飛行機の中でつらつらと考えているうちに、簡単なダイエットを思いついた。つまり、「お腹(なか)が空いている時間帯」をつくればいいのではないか。これは、自分の状態を把握する「メタ認知」を用いるという意味では、応用脳科学ともいえる。

 子どもの頃を思い出すと、お腹が空いてぐうぐう鳴っている時間帯があった。小学校の頃など、2時間目の授業の時にはすでにお腹が空いていた気がする。それから給食まで、ずいぶんとお腹が空いている時間が長かった。

 最近はどうか。お腹にだいぶ「蓄え」ができた、ということもあるのだろうが、お腹が空いている時間帯が、少なくなったような気がする。


1日3食を広めたのはエジソン?
 先日、テレビの収録に行った時、スタジオでこんな話をしていた。トーマス・エジソンは、自分の発明品(トースターや、コーヒーメーカーなど)を売るために、記者会見をして、「1日3食にしたほうがいい」と言ったそうである。それまで、アメリカでは、2食が普通だったのだそうだ。


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写真1
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写真2


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写真3
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写真4
 私たちが1日3食なのは、エジソンのせいかどうかはわからないが、決まった時間にごはんを食べなければならない、というのは一種の思い込みだろう。本当は、自分の体と対話して、お腹が空いたら食べるのが理屈に合うに決まっている。その意味では、私自身も、朝だから、昼だからと、惰性で食べている部分がないともいえない。


ダイエットの「敵」が多いバンクーバー
 飛行機の中でそんなことを考えて、さっそく「お腹が空くまで食べない」「お腹が空いている時間帯をつくる」ダイエットを実行してみようと思ったが、何しろ旅先では難しい。おいしそうなバンクーバーのビールもあるし(写真1)、バンクーバーのあるブリティッシュ・コロンビア州特産のサーモンをつかったおいしいパン料理(なんとかというのだが、名前を忘れた)もある(写真2)、TEDの会議の合間には、参加者によるディナーパーティーもあって(写真3)、そんな時には、食べないわけにはいかない。


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写真5 会議そのものは、じっとして聞いているわけだから、あまりカロリーを消費しない(写真4)。朝、ホテルの近くの浜辺を走って、それをスマホのソフトで記録してみたりするが(写真5)、先ほど書いたように、走っても、カロリー消費という意味では、効果は限定的である。

 というわけで、「お腹が空くまで食べない」「お腹が空いている時間帯をつくる」というダイエットを、バンクーバー滞在中は実行できそうもない。特産のキノコのソテーはおいしそうだし、ビールも実にうまい。せっかくTEDに来る飛行機の中で考えたダイエット法だが、その本格的実行は帰国後になりそうだ。

茂木 健一郎(もぎ けんいちろう)
脳科学者、ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。1962年、東京生まれ。東大大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。クオリア(感覚の持つ質感)をキーワードに脳と心を研究。最先端の科学知識をテレビや講演活動でわかりやすく解説している。主な著書に「脳の中の人生」(中公新書ラクレ)、「脳とクオリア」(日経サイエンス社)、「脳内現象」(NHK出版)、「ひらめき脳」(新潮社)など。

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(2014年3月24日 読売新聞)