放流って本来とても難しい | ぽんのあれこれ

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徒然なるままに日暮し、スマホに向かいて心に移り行くよしなしごとを書き連ねます。基本的には備忘録。


気になったらお好きにコメントしていただければと思います。

  こんな記事がありました

処分に困って逃がしちゃったとの事。



ニジサクラと言うことで、ニジマス♀×サクラマス♂の掛け合わせを染色体処理して全て♀となるよう改良したものらしいですね。


鮭科の交雑自体は自然界でも時々みられ、ヤマメとイワナの交雑であるカワサバなんかは有名かと思います。


産卵期と産卵場所の違いからそれほど交雑頻度は高くないそうですが、人為的な交配となると自然環境下とは違い、そのような障壁も無いことから無作為な遺伝子汚染が広がる可能性があります。


とはいえ、雑種第一代(F1)においてこのような交雑種が生殖能力を持つ場合の方が少なく、管理釣り場なんかだとイワナとニジマスの交雑で作られたロックトラウトなんかが放たれていたりします。


ロックトラウトもやはり生殖能力がないらしく、自然環境下への逸脱であっても補食圧力以外の驚異にはならないそうな。


今回のニジサクラも遺伝子汚染の観点では問題ないのでしょうが、補食圧力による在来魚への影響というのが懸念されるところなんでしょうかね。


商用魚としてのニジマスの価値は高く、比較的高水温にも適応出来、病気に強く、大きくなり、飼育しやすい性質があるがゆえに、大きくなる個体を選別してニジマスの持つ遺伝的要素の範囲で改良を行ったドナルドソントラウトや、今回のニジサクラのように他魚種の肉質等のメリットを遺伝子としてニジマスに持ち込み改良する交雑改良や、発生時に特定の圧力、温度に管理することで遺伝子の分裂を抑制し、本来二組の遺伝子があるはずのものを四組の遺伝子を持つようにし、その結果として四倍体を作り出し、減数分裂により2nの遺伝子をもつようにして通常のブラウントラウトと掛け合わせ3nの遺伝子、つまり三倍体(種無しスイカと同じ原理)を作り出し生殖能力を失わせ、体躯の増大と肉質の改良を行う信州サーモンの作出方法等々、色々な技術が編み出される程の有用な魚種でもあります。


また同じ鮭科のイワナなんかだと、日本にはエゾイワナ、オショロコマ、ニッコウイワナ、ミヤベイワナ、ヤマトイワナ、ゴギ等の種類がありますが、実際には亜種程度の違いであって、イワナとオショロコマの二種がそれぞれ別種として記載されているに過ぎないそうです。ミヤベイワナでさえオショロコマの亜種なんだそう。


つまり他の河川からイワナを持ち込むと、その河川固有の遺伝子は交雑により表現型として優勢遺伝するものばかりになっていくはずです。


イワナの隠れ沢と呼ばれるような、本来居ない筈の渓流にイワナが居たりするのは昔々の放流や逸脱により居着いてしまった個体の累代によるもので間違いないと思います。


日本の鮭科魚類にはそんな些細な変化をずっと保って、図鑑に別種として認識される程度に地域差をもつ程のバラエティに富んだ生態系を有している凄い自然な訳です。


  放流事業の是非は置いといて

とは言いつつ、僕もそんな放流事業で川と遊んできた一人なわけで、放流事業の是非を論じるつもりは無いんですけど、本来はその河川で獲れた魚を増やして、その河川にだけ放す。そんな形だったら今ほどの言われ方もしなかったろうになぁ。と思うところ。


その土地の遺伝子を持った魚が増えるだけなら遺伝子汚染なんて話はならないはず。その代わり在来魚への補食圧力の件は解消しないわけですけれど。


遺伝子汚染の話と補食圧力。この2つを同時に解決する放流事業なんてのはシナノユキマス程度でしか実現しておらず、本当に放流事業というのは難しいものなんだなぁと思うわけです。


翻って今回のニュースの件は処分に困って逃がしたという最悪の人為的放流のうち、放たれた魚に生殖能力を持たないと言うことから自然と人間からの淘汰圧力でなんとかなるんだろうなぁ。と思うところですが、その程度の考えの方々に口酸っぱくブラックバスを逃がさないでとか、最後まで責任もって飼育してとか言われても何も響かないのではないの?と思ってしまいます。