そっと一生懸命に生きている ─『スロウハイツの神様』(辻村深月)─ | 出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

「披沙揀金」―砂をより分けて金を取り出す、の意。
日常出会う砂金のような言葉たちを集めました。

 自分の小説の影響で、人が死んだ。その苦しみの中にあったチヨダ・コーキを救ったのは、「私は生きています」で始まる、匿名の少女の手紙でした。

 ─チヨダ・コーキの小説を読んで人を殺した人がいる。でも、私は、チヨダ先生の小説を読んで、生きる勇気をもらった。自殺しようとした思いから、立ち直った─。

 切々とその思いを綴った手紙です。

 

 ─派手な事件を起こして、死んでしまわなければ、声を届けてはもらえませんか。生きているだけでは、ニュースになりませんか。何も問題が起こらないこと、今日も学校に行けることが「平和」だったり、「幸福」であるのなら、私は、死んだりせずに問題が起こっていない今の幸せがとても嬉しい─

 (辻村深月、『スロウハイツの神様(下)』より)

 

 強く自己を主張したり、人目を引くことをして、自分の思いを通そうとする人がいます。

 一方で、この少女のように、そっと思いをしたためながら、一生懸命に生きている人もいます。でも、あまりにも平凡に見えるその思いは、取り沙汰されることは、まずありません。

 

 その少女のことが少しずつ明らかになり、そして小説の伏線が見事に符合した時、私は、この二人の、そして『スロウハイツの神様』のファンになりました。

 

 この本の帯に、「辻村ワールドすごろく」というのがありました。「この順番で読めば、より楽しめる!」のだそうです。すでに読んでいるものもあるのですが、それも含めて、辻村ワールドを歩いてみたくなりました。