兄・頼朝の命を受け、源氏のために戦ってきた義経でしたが、あらぬ誤解を受けます。理不尽を感じながらも、しかし、自分さえ我慢すれば、そして怨みをはらすような戦を起こさなければ、人々を苦しめ続けた無意味な争いをここで止めることができる。そう思った義経は、指揮下の兵に告げます。
「…これから先、お汝(こと)たちが、旧主の怨みをはらさんなどという考えを起こしたら、義経の最期は無惨、犬死にとなるだろう。こんぱくは宙に迷うぞ。」
(吉川英治、『新・平家物語(十六)』より)
こうして義経は、自らの命をなげうちます。
二度と世の中を戦の世にしない。自分が争わなくとも、「義経殿の仇!」などと臣下の者が戦いを起こせば、また世を戦渦に巻き込んでしまう──。
義経の活躍は、一ノ谷や屋島、壇ノ浦にありと思いがちですが、本当の面目は、この最期にあったと言えます。
名は『平家物語』ですが、この長い16巻もの話の主人公の一人は、私は義経だと思うのです。
そして、もう一人。目立たぬ一人の男が。
それについては、また次回で。
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