転校を繰り返す宏美は、あるクラスで、男女の全面戦争を目の当たりにします。
─原くんは、ああ見えて、1年生のときには逆上がりができなかった。
絵里香は3年生の社会科見学でお弁当を忘れてしまい、バスの中で泣きどおしだった。
奈々ちゃんは音楽会のときにカスタネットに指を挟んで大泣きしてしまった─
そんなやりとりを見ながら、宏美は思います。
みんな悪口のネタをたくさん持っている。思い出がたくさんある。それがいま、むしょうにうらやましくて、ねたましい。
(重松清、『さすらい猫ノアの伝説』より)
ある小学校の授業場面を思い出しました。
小学校2年生で『スーホの白い馬』を読んでいたときのことです。
主人公の少年スーホが白馬に、“兄弟に言うように話しかけました”というくだりがあります。
一人の女の子が立ち上がって問いかけます。
「『兄弟に言うように』なのに、どうしてスーホは白馬にこんなにやさしいの」
他の子が語り出します。
「『兄弟に言うように』だからやさしいんでしょ」
「うちのお兄ちゃんはやさしくなんかないよ。この間もプロレスの技とかかけられて、とても痛かったんだから」
「うちのお姉ちゃんは先に大きい方を取っちゃうよ。やっぱり兄弟は下の方が損だと思う」
「そんなことない。喧嘩して叱られるのはいつも僕で、お母さんは『お兄ちゃんなんだから我慢しなさい』って言う」
そんなやりとりを聞いていた、ある一人っ子の子どもが思いを吐露します。
「今のみんなの話を聞いていてね。僕は一度でいいから兄弟喧嘩がしてみたいって、そう思ったよ」
(奈須正裕、『「資質・能力」と学びのメカニズム』より)
恥ずかしい過去も、喧嘩も、人と人とをつないでくれていることを教えてくれる2話でした。
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