犬に抱く恋心? ─『「作家」と「魔女」の集まっちゃった思い出』(角野栄子)─ | 出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

「披沙揀金」―砂をより分けて金を取り出す、の意。
日常出会う砂金のような言葉たちを集めました。

犬を飼う。

「しつけは初めが肝心」と思っていながら、あまりのかわいさに、ついつい甘くなってしまう。

多くの人が経験しているのではないでしょうか。

角野栄子さんもそのひとりです。

 

「ビスケット? いいわ、ちょびっとなら」

「同じベッド? いいわ、はじっこなら」

「枕? いいわ、はじっこなら、ちょびっとね」

そのうち、犬は自分が主人と思い込み、行動はしだいにエスカレートしていきます。

 

角野さんの愛犬ムムも然り。

ちょびっとがどっさりになり、角野さんの頭は、枕のはじっこに追いやられます。そしてムムは、ゴーゴー、ガーガーと高いびき。時々寝言も、悲鳴に近いなき声も混じります。ムムのねむりの世界はドラマチック。

 

ねえ、ムム。枕のまんなか譲ったんだから、あんたの夢のはじっこ見せてよ。

 (角野栄子、『「作家」と「魔女」の集まっちゃった思い出』より)

 

 

今日で、この本の紹介も5回目、今回で最終回にします。

随所に名言がある本でしたが、角野さんのムムへのこの言葉がなぜか心に残りました。

「私の中に大きな存在を占めるようになったあなたの、ほんの一端だけでも知りたいの」

そんな恋心を感じさせる言葉だからでしょうか。