少数派が「ありがとう」と言える社会 ─『ぼくらの民主主義なんだぜ』(高橋源一郎)─ | 出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

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「披沙揀金」―砂をより分けて金を取り出す、の意。
日常出会う砂金のような言葉たちを集めました。

 2014年3月18日、中国に吞み込まれることを危惧した台湾の学生数百人が、台湾の立法院(議会)を占拠しました。学生たちは、規律と統制を守りつつ、院内から国民に向けてアピールし、国民からも強い支持を受けていました。

 しかし、結局願いのすべてを受け入れてもらうことはできず、立法院長(議長)の示した妥協案を受け入れることになりました。学生のリーダーは、次のように語った後、静かに壇上から降りました。

 

「撤退の方針は個人的には受け入れがたいです。でも、ぼくの意見を聞いてくれたことを、感謝します。ありがとう」

 

 それから2日間をかけ、院内を隅々まで清掃すると、運動のシンボルとなったひまわりの花を一輪ずつ手に持って、学生たちは静かに立法院を去っていったそうです。

 

 高橋源一郎さんは、その著書の中で言っています。

 

 学生たちがわたしたちに教えてくれたのは、「民主主義とは、意見が通らなかった少数派が、それでも、『ありがとう』ということのできるシステム」だという考え方だった。

 (高橋源一郎、『ぼくらの民主主義なんだぜ』より)

 

 私たちの国や地域や組織は、「意見が通らなかった少数派が、『ありがとう』といえるシステム」ができているでしょうか。少数派が言っても、その意見がなかったものにされたり、あるいは、雰囲気の中で少数派が声を出すことさえできなかったり。

 民主主義の難しい定義は分かりませんが、でも「少数派がありがとうと言える」、大切なことはここに凝縮されているように思えます。