母に ─『星々の舟』(村山由佳)─ | 出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

「披沙揀金」―砂をより分けて金を取り出す、の意。
日常出会う砂金のような言葉たちを集めました。

 人生は、よく海にたとえられます。

 大海原にこぎ出した、小さな舟。

 家族一人一人の舟が小さく輝きながら、星座を描く。

 夜空をさまよいながら、やっとどこかで分かり合える静かな物語。

 『星々の舟』。

 

 

 けがをして、歩くことも十分ではない母親に、曉(あきら)は手を差し伸べることができませんでした。しかも、そのけがは、自分のせいで負ったものと後で知ります。

 その母親を亡くしてしまったあとに、曉が悔やんだこと。

 

…どうしてあの時、手を貸すのをためらったのか。ただ歩くだけでもひどく苦労しているのがわかっていたのに、どうしてただの一度も手を差し出してやらなかったのだろう。

(村山由佳、『星々の舟』より)

 

 生きているうちは、「まだ明日がある」「いつかはしてあげられる」と思ってしまいます。

 でも、先延ばしにした挙げ句、永遠にその機会が失われることがあります。

 

 私も、年老いた母に、「仕事が落ち着いたらしてあげる」と言ったままにしていることがあります。母は、きっとその約束を覚えていながら、でも「きっとまだ忙しいのだから…」と黙ってくれているのでしょう。そして、それを薄々感じていながら、甘えてしまう自分。

 でも、今度の仕事休みの日には、ちゃんと約束を果たさなければ。小さい頃から心配ばかりかけてきたので、少しは親孝行をしなければ。