『蜜蜂と遠雷』。芳ヶ江国際ピアノコンクールを巡る音楽家たちの物語。
「本」ですから、物理的な音が聞こえてくる訳ではありません。でも、私の聴いたことのない音楽が届いいてきます。そして、新しい音楽の世界が開けるのです。
私はずっと、「音楽は聴く人がいて、聴いてくれることで完結する」と教えられてきました。だから、聴き手のいるところで演奏することを避けてはいけない、と。
でも異才のピアニスト・風間塵は「どのくらいピアノが好きなの?」と聞かれ、こう答えます。
「世界中にたった一人しかいなくても、野原にピアノが転がっていたら、いつまでも引き続けていたいくらい好きだなあ」
さらに、「聴く人がいなくても音楽と呼べるのかしら」という問いに対しては─
「分からない。だけど、音楽は本能だもの。鳥は世界に1羽だけだとしても歌うでしょう。それと同じじゃない?」
一人で、誰かに聴かれているというプレッシャーもなく、自由に想像しながら、自分の思うがままに演奏する。私も、そういう時間が好きです。
風間塵ほどの才能は、まったくないのですけど。