どんなに自分らしさを集めても ─『ぼくのニセモノをつくるには』(ヨシタケ シンスケ)─ | 出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

「披沙揀金」―砂をより分けて金を取り出す、の意。
日常出会う砂金のような言葉たちを集めました。

 ある日、「ぼく」は、ぼくのニセモノを作ろうと思い立ちます。

 ロボットを1台買って、自分そっくりに仕立てあげようとします。

 

 例えば、外見─。耳たぶが小さいとか、くつしたによく穴があいているとか。

 例えば、「できることとできないこと」─。お風呂に反対向きに入ることはできるけど、こちょこちょされても我慢することはできないとか。

 例えば、「周りから見たぼく」─。お母さんから見たら、「マイペースで言うことを聞かない長男」。お医者さんから見たら、「よく風邪をひく注射がきらいな患者さん」。自分では「おもしろくてかっこいい人気者」だとか。

 

 しかし、たくさんのことを教えて、そっくりさんになったと思っても、お母さんに「あなた、だれ?」とすぐ見破られます。

 どんなに「ぼく」らしさを集めても、「ぼく」にはかなわない。それが「ぼく」。

 

 恋人で言えば、こんなこと。

 

この街のあたたかいものを 集めても 君にはかなわない。

 (槇原敬之、「今年の冬」)

 

 このフレーズの前には、こんな言葉があります。

 

今年の冬も ぼくには 君がゆっくり積もる

 

 ブログを始めて、初めての冬が終わろうとしています。

 今年の冬は、私には、たくさんの言葉がゆっくり積もりました。