心をそっと置きたくなる場所 ─『すきまのじかん』(アンネ・エルボー 作、木本 栄 訳)─ | 出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

「披沙揀金」―砂をより分けて金を取り出す、の意。
日常出会う砂金のような言葉たちを集めました。

うぐれどきの、すきまのじかんを しっていますか?

まだ、あかりをともすほど、くらくもなく

かといって ほんをよんだり、ぬいものをするほど

あかるくはない じかん

 

そらのすみっこが あかくそまり とおくで、たいようが ねむりにつくところ

それは おもいでのせかい。

かなしいような うれしいような まいにち、やってくるのだけれど

それは、まるで あったのか、なかったのか さえ わからないような

はかないじかん。

 

そんな すきまのじかんを あなたはしっていますか?

 

 (アンネ・エルボー、『すきまのじかん』より)

 

 すきまのじかんは、竹馬にのっています。静かで、頼りなげです。

 頭には、指ぬきをかぶっています。とても小さいのです。

 右手に持っているのは 何も書いていない ちいさな本。

 

 太陽の王様と、闇の女王様から追い払われたすきまのじかんは、二人の間に、そっと忍び込むのでした。太陽の時間のあと、闇の時間の前の、ほんのわずかな間に─。

 

 王様や女王様のように何かを主張してくるわけではありません。

 何も書いていない本も、何も語りません。

 私たちは、その静かで、守ってあげたくなるようなはかない時間に、静かに物思いにふけります。

 

 あいまい、ひかえめ、頼りない・・・。現代の風潮とは逆行するような「すきまの時間」を、なぜか大切にしたくなる、そんな淡い絵本です。