塾の創始者として理想の教育を説き続けてきた一人の女性・千明の生涯を描いた小説です。
揺れ動く教育界を何十年も批判し続けた千明。物語の終盤、彼女が亡くなる間際の様子について、夫が語る場面があります。病室のベッドの中で、彼女はこう言ったそうです。
「これまでいろいろな時代、いろいろな書き手の本を読んできて、一つ分かったことがある。どんな時代のどんな書き手も、当世の教育事情を一様に一様に悲観しているということだ。最近の教育はなっていない。これでは子どもがまともに育たないと、誰もが憂い嘆いている。もっと改善が必要だ、改革が必要だと叫んでいる。読んでも読んでも否定的な声しか聞かれないのに最初は辟易したけれど、次第に、それはそれでいいのかもしれないと妻は考え始めたそうです。常に何かが欠けている三日月。教育も自分と同様、そのようなものであるのかもしれない。欠けている自覚があればこそ、人は満ちよう、満ちようと研鑽を積むのかもしれない、と」
「欠けている自覚があればこそ、人は満ちよう、満ちようと研鑽を積むのかもしれない」
教育のことだけではなく、仕事も、友人関係も、家族も、「もっと満ちたい、もっといい関係を築きたい」と思うから、人は悩んだり、苦しんだりしながらも、前を向いていくのでしょう。
明日の夜空には、三日月がかかります。満ちよう、満ちようと願う自分にお月様を重ねながら、夜空を見上げてみませんか。