軍曹は、三日に一度しか配給されない、わずかな肉を動物たちに分かち与えていました。
その軍曹の言葉。
「人間と人間の戦争なら、人間がいくら死んだって文句は言えめえが、なしてけだものが飢えて死なねばならねえんだ。ましてや、動物園さなぐなったら、子供らはどこさ遠足行くの。キリンやライオンが絵空事ではねえと、どうやって知るの。そんたな子供が大人になりゃあ、平気で人を殺すぞ。平気でまた戦争をするぞ」
一方で、戦争で自らを苦しめる人間を思う獅子。
肉体よりもすぐれたものを、どうして人間は造り出したのだろうか。自分の足よりも速いもの、自分の腕よりも靱(つよ)いもの、自分の牙や爪より鋭いものを。やがてそれらが自分自身を傷つけ、過分な欲望の基(もとい)となり、ひいてはそうした必然の結果を神仏の規定した運命だと錯誤することになるのだと、どうして気付かなかったのだろう。
・・・どうして想像できぬのだ。鋼鉄の雨に打たれる少女たちのおののきを。
動物を思う人間もやさしい。人間を思う動物もやさしい。
なのに最後に悲しい思いをするのは、いつも動物たち。
そんな理不尽をすべて吞み込んで、愛する人間のために吼える獅子の物語、『獅子吼』。