命を救った「赤とんぼ」 ─朝日新聞記事から─ | 出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

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日常出会う砂金のような言葉たちを集めました。

 1月17日。24年前に阪神・淡路大震災の起こった日。

 その翌々日の新聞に、次の記事が掲載されました。

 

妻の歌声 命救った

暗やみに「赤とんぼ」  70歳の夫 21時間支え

 …(前略)…地震直後、体の上にタンスなどが倒れ、天井は顔から1メートルまで落ちてきた。左手がわずかに動かせるほかは、身動きがまったくできない。顔にかかった毛布を暗やみと窒息の恐怖の中で救助を待った。「このまま死んでしまうかもしれない」。そう思った時、妻の和子さんの「赤とんぼ」の歌声が聞こえてきた。

 〽夕焼け、小焼けの赤とんぼ…

 「まわりから人の声がしたので、歌を歌ってみんなを元気づけなければ、と思いました」と和子さん。

 巧さん(夫)はその歌声が心の支えになったという。

 約十時間後、巧さんの姿が見えたとき、和子さんは涙ぐんだ目を押さえながら駆け寄った。

 「命さえ助かれば何もいらない」と巧さんはもらした。

  (1995年1月19日、朝日新聞より)

 

 歌、詩、謳、謡、唄、唱、詠、詩、詠・・・。

 「うた」は「うったえる」から生まれたと言われます。

 最近、機械が微妙な音程などを聞き分け、採点するカラオケ番組がはやっています。

 和子さんがうったえた「赤とんぼ」は、機械の点数にはならなくても、どんな歌よりも巧さんの心に響いたに違いありません。