ジーヴズはツンデレ? ─『ジーヴズの事件簿・大胆不敵の巻』(P・G・ウッドハウス)─ | 出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

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日常出会う砂金のような言葉たちを集めました。

 昨日の『ジーヴズの事件簿・才知縦横の巻』に続き、『ジーヴズ』シリーズです。「才知縦横」でありながら、結構思い切ったことをやる、「大胆不敵」なジーヴズの魅力が満載です。

 2作を続けて読み、ご主人・バーティに対する執事・ジーヴズの接し方は、素っ気ないようで情がこもっているという思いを強めました。俗に言う「ツンデレ」的な関係とでも言えましょうか。

 

 終盤で、バーティーはジーヴズの真意に気付き、次のように回想する場面があります。

 

 僕は瞬時にして彼の意味するところを悟り、いまのいままでこの忠義な男を誤解していたことを理解した。苦境に追いこみやがってと僕が思っている間も、この男は僕を苦境から引き離そうと誘導していたのだ。そういえば、子供のころに読んだお話でこういうのがある。真っ暗闇を歩む旅人のズボンの裾を犬が噛むんで、旅人が「よさんか! 何をするんだ、ローヴァー?」と言う。それでも放さないので、怒りが込み上げてきて怒鳴りつけても、犬は放そうとしない。そのとき、ふと夜空の雲が切れて月の光が射すと、旅人は断崖の縁に立っており、あと一歩で──。

  (P・G・ウッドハウス、『ジーヴズの事件簿・大胆不敵の巻』より)

 

 ただ、ジーヴズの場合、この犬のように純真にご主人様の身を案じているというよりも、ご主人様が苦境に立たされているのを楽しみながら解決しているように感じられるところが、この小説のユーモアを醸し出しています。そして読み手である私たちは、純真に楽しむことができるのです。

 

 『ジーヴズ』シリーズは、皇后陛下様もご愛読しているとのこと。おいそがしい日常の中で、このようなユーモア小説が、きっと心を和ませてくれているのでしょう。