クリスマス・イブ 前夜─『サンタクロースの部屋』(松岡享子)─ | 出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

「披沙揀金」―砂をより分けて金を取り出す、の意。
日常出会う砂金のような言葉たちを集めました。

「サンタクロースは、ぜったいにおる! だって、朝起きたらプレゼントが置いてあったのに! それに、お父さんもお母さんも『サンタさんが来てくれたんやな』って言よったし。」

 今思えば、非常に乏しい根拠で力説していた、幼い頃の自分。

 青春時代には、

「今年のクリスマス、だれか一緒に過ごしてくれるかわいい彼女おらんかなあ。」

と男友達とぼやいていました。

 そしていつしか、サンタ側になっていました。

 

 でも、どの時期も、クリスマスは夢をくれました。

 何かをもらうにしても、何かを与えるにしても、人を幸せな気持ちにしてくれます。

 サンタクロースがだれかを知ってしまった後でも。

 

─サンタクロースその人は、いつかその子の心の外へ出ていってしまうだろう。だがサンタクロースが占めていた心の空間は、その子の心の中に残る。この空間がある限り、人は成長に従って、サンタクロースに代わる新しい住人を、ここに迎えいれることができる。この空間、この収容能力、つまり目に見えないものを信じるという心の働きが、人間の精神生活のあらゆる面でどんなに重要かはいうまでもない─

  (松岡享子、『サンタクロースの部屋』より)