等と「私」は、いつもこの川で待ち合わせて、この川で川向こうとこちらに別れた。最後の別れもこの川だった。4年もいて、それでもこんなに好きだった等は、不慮の事故で帰らぬ人となった。
ある朝、「私」は、橋の上で一人の不思議な女性“うらら”と出会う。うららは、「明後日の朝、この場所に来ると、もしかしたら何かが見えるかもしれない」と言う。
そして、その日─。
川向こう、夢や狂気でないのなら、こっちを向いて立っている人影は等だった。
彼は青い夜明けのかすみの中で、こちらを見ていた。私が無茶をした時にいつもする、心配そうな瞳をしていた。2人をへだてるあまりにも激しい流れを、あまりにも遠い距離を、うすれゆく月だけが見ていた。
等、私と話したい? 私は等と話がしたい。でも、でも─涙があふれた─運命はもう、私とあなたを、こんなにはっきりと川の向こうとこっちに分けてしまって、私にはなすすべがない。時間が止まればいいと思い─しかし、夜明けの最初の光が射した時にすべてはゆっくりとうすれはじめた。
(吉本ばなな「ムーンライト・シャドウ」より抜粋)
「ムーンライト・シャドウ」は、『キッチン』(福武文庫)に収録されている短編です。
昨日ブログで紹介した「キッチン」「満月」は20年ぶりに読み、登場人物もあらすじもすっかり抜けていたのですが、なぜかこの物語は、読み進めながら、「確かに読んだことがある」という感覚が生まれました。20年たっても、消えていませんでした。
現代の七夕物語。
日本版「ゴースト/ニューヨークの幻」。
名作のストーリーを吉本ばななさんの透明な文章で味わいたい方に。