シイの木のうろに入った子供が、「あそこへ行きたい」と心から願うと、思いがかなう─。
『二百年の子供』は、ノーベル賞作家・大江健三郎が描くファンタジー作品です。
真木たち3人は、まず、120年前の過去を訪れます。
3人は、その時代の子供たちの苦しみを見るものの、どうしようもない自分たちの無力さを知ります。そんな3人に叔母が語りかけます。
─ 置いてきぼりにされた子供たちが、元気だった。それを見てきた、というだけですてきじゃないの。小さい女の子たちにできる本当にいいことでしたよ。
ちっぽけな人間には、過去を変えることはできません。しかし、その時代の人々がどんなにつらいかを思い、心配し、幸せを願うことはできます。それが私たちにできる「本当にいいこと」なのでしょう。
3人は、80年後の未来にも行きます。
そして、過去は変えられなくても、未来は変えられることに気付きます。
「ここまで流れて来た、川上のことは過去だ。もう変えられない。しかしね。ここから流れていく川下は、変えられるよ。」
“いま”が、過去の深さと未来からの光にひきつけられていることを説いたこの作品は、最後に、ヴァレリーの言葉を引きながら、大切なメッセージを届けてくれます。
私らが呼吸をしたり、栄養をとったり、動きまわったりするのも、未来を作るための働きなんだ。ヴァレリーは、そういうんだ。私らはいまを生きているようでも、いわばさ、いまに溶けこんでいる未来を生きている。過去だって、いまに生きる私らが未来にも足をかけてるから、意味がある。思い出も、後悔すらも・・・