1937年、ナチス・ドイツによるスペイン北部の小都市、ゲルニカの空爆。一般市民を標的にした人類史上初の無差別爆撃。
パブロ・ピカソは、故国を襲ったこの惨劇を悲しみ、憤り、一つの巨大な作品に表しました。
それが「ゲルニカ」です。
時は飛んで2003年、国連安全保障理事会では、イラクに対して、軍事行動に踏み切るべきか否かの議論が繰り広げられていました。そして、イラクが大量破壊兵器を所有しているという証拠を示す会見を行うために、当時のパウエル国務長官は安保理議場のロビーで会見を行いました。その時、いつもなら、そこにあるはずの「ゲルニカ」のタペストリーに、何者かにより暗幕が掛けられていたという「事件」がありました。
ピカソの思いが込められた「ゲルニカ」は、反戦のシンボルです。それ故、国連の安保理議場に飾られています。
そのような空爆を批判する絵が、国務長官の背景にあってはまずい、だれかがそう気付いて暗幕をかけたのです。
このことについて、原田マハさんは、『いちまいの絵』の中で、次のように述べています。
この「事件」のニュースは即座に世界中を駆け巡った。私もほぼリアルタイムでこのニュースを知り、二つのことを思い知った。ひとつは、戦争を始めるときの人間のあざとさを、そしてもうひとつはピカソの力 ── つまりアートの力を。
「ゲルニカ」のタペストリーは、バイエラー財団美術館のロビーにも展示されています。
その展示の脇には、暗幕の前で演説をするパウエル氏の写真と、美術館の創始者・バイエラー氏のメッセージがあります。
「平和を愛したピカソの真実のメッセージは、暗幕などでは隠しきれない。イラク戦争に異を唱え、ここに「ゲルニカ」のタペストリーを展示する。」
中高生を対象に「平成後」の時代に大切にしたい価値観を問うたところ、最も多かったのが「平和」で、全体の41パーセントを占めた、という記事が、先日の新聞に掲載されていました。
「ゲルニカ」に幕を掛けなければならないような事態が二度と起こりませんように。
第二の「ゲルニカ」が描かれるような時代がやってきませんように。
何よりも、この中高生たちの願いにまで、幕が掛けられることがありませんように。