私たちのクラブでは、強化部が他国35リーグを徹底的にチェックしスカウティング作業をする。選手数にすると膨大な情報量だ。


育成年代においては、うちのスカウトが関心を示した選手の身分照会をさせて頂くこともあるが、「どうしてあの子なんでしょうか?うちにはもっと良い選手がいるのに」と、所属チームの方から逆に質問を受けることがある。

 

そのあたりの「良い選手」の基準や尺度については、以前ブログにも書き留めたので、ご一読頂ければ幸いです。

 

スペインにおける選手の優秀性は「優越」ではなく「異なる」で測る

 

さて今日は「優秀なスカウトは何を見ているのか?」についてお話をしてみたい。

 

私たちビジャレアルは「育成力」を評価されることが多いが、私は同じくらいもしくはそれ以上に「スカウト力」に優れているクラブだと思っている。

 

実際、うちの強化・スカウトは年々ヘッドハントされ、他クラブに多くの人材が流れている。選手だけでなく指導者やスカウト・強化担当も「育つ」クラブであるのは喜ばしいことだが、正直ちょっぴり痛い。

 

さて、そんな「優秀なスカウト」が育つ(集まる?)ビジャレアルだが、私たちは他の欧州ビッグクラブと競合しながら、タレント発掘に必死の毎日だ。

 

では、いったいスカウトは選手の何を見ているのだろう?

 

上手い選手を「上手い」と認識することは、言ってみれば素人でもできる。

 

別に、プロや専門家でなくてもいい。

 

個人的な意見に過ぎないが、私は、優秀なスカウトが備える能力として「相対性」という要素を重要視している。

 

フットボールに従事する者たちが「相対性」を考慮せず、「良い選手」の判断をしていては、私たちの仕事は成り立たない。


試合の「勝ち負け」も同様だ。

 

フットボールの複雑性に、この「相対性をもって見抜く力」という側面があると私は考える。

 

【相対性】 他との関係のなかにある、という性質。

 

【相対的】 他との関係において成り立つさま。 他との比較の上に成り立つさま。

 

ときにスカウトが選手を見誤るのも、まさにこの「相対性」という複雑な要素を精度高く機能させることが難しいためだと感じる。

 

選手やチームを独立したものとして見る分には、良い選手は良いし、強いチームは強い。誰の目にもそう映るものだ。

 

しかしそれを、自クラブのコンテクストに重ね合わせて(相対)、どこまで正確に測ることができるのか。

 

「見抜く」とは、そういうことなのだ。

 

私たちのトップチーム強化部は、各国リーグをレイヤー分けしている。例えばプレミアリーグは、最高峰リーグとして「レイヤー1」といった具体だ。

 

これは「その選手」のパフォーマンスが、「どのようなコンテクストで発揮されているのか?」を見定める指標とするためだ。

 

競技力が高いリーグでハイパフォーマンスを発揮している選手はそのように評価がなされるし、競技力がさほど高くないリーグで良いパフォーマンスを見せている選手は、相応のコンテクストが考慮されたうえで評価がなされる。

 

また、U21以下の育成部強化は、全国に散らばるスカウトのレポートを「即、交渉すべし」「間違いないと思うけど、本部から強化担当がその目で最終確認すべし」「継続して追うべし」「今後追う必要無し」といった具合にカテゴリー分けをする。

 

アウトオブ・コンテクスト。選手を「独立したもの」もしくは「切り取って」見ているようでは、プロのスカウトとして成り立たない。

 

まるで異なる舞台(コンテクスト)でプレーする選手を、ラ・リーガもしくはビジャレアルのそれに照らし合わせ、重ね合わせ、相対性を考慮して選手を見抜くことは想像以上に難しい。

 

ただそれこそが、サッカーという競技の深淵なる点のような気がするのだ。

 

「relativity(相対性)」は、スカウト、強化担当、指導者、そして経営者に求められるコンピテンシーのひとつとして間違いなく挙げられるだろう。

 

スペイン国内の主要クラブのいずれもが、何年もの間、あのペドリ選手の獲得を「判断保留」としてきた事実は業界ではよく知られている。

 

「異なる」を判断基準として大切にする傾向にあるスペインでは、さらに最終判断で意見が割れるといった難しさが存在するのかもしれず、スカウトの苦悩はペドリ選手の移籍経緯にも現れている気がするのだ。