(再録)からくり兄弟 | せいぜいひまつぶしの小話

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5年目から創作系ブログとして新装開店しました。
色々と思うところ書いてます。講談社への抗議不買は一生続けます。
2022年12月からは小学館もリストに加わりました。
「人を選ぶ」とはつまり「自分は選ばれた」ということです。

いつものように遊びに行ったあの日、じいさんの家で出されたのは、
いつもと違う冷たいカルピスと、一袋のポテトチップス(のりしお)でした。
じいさんなりに子供が好きそうなものをと、気を遣ってくれたのかもしれません。

そんないつもと違うおやつの中身とは全く何の関係も無い今回のお話は日本の、
なんでも江戸時代の昔話だそうです。
実際のところはどうなのか、そんなのは“ぼく”の知ったことではありません。

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むか~し、むかし、あるところに、
からくり仕掛けでからくり師の兄弟がおりました。


からくり仕掛けとは?はてさて、いったい全体どういうことなのかと申しますと、
この兄弟、なんと体の一部が鋼(はがね)とぜんまいのからくり仕掛けでございまして、
兄は右腕と左足が、弟はなんと体の全部が、からくり仕掛けでありました。


二人はたいそう仲が良く、つらいときもかなしいときも、
どんなときでも兄弟二人、力を合わせて助け合いながら生きてきたそうです。


ところでこの兄弟、生まれついてのからくり仕掛けだったわけではありません。
今よりずっと幼いころ、戦(いくさ)で死に別れたおっかさんに会いたい一心で、
おっかさんをからくり仕掛けで生き返らせようとして見事にしくじり、
しくじったその勢いで自分たちの体をなくしてしまったというわけです。


以来この兄弟、なくした体をからくり仕掛けでなんとか埋め合わせてはみたものの、
今度は自分らの体を元にもどさなくてはならなくなりました。


結局この兄弟、おっかさんを生き返らせたいんだか自分らが元の体にもどりたいんだか
どっちつかずのまま、幼なじみの勝気娘を加えた三人で行脚(あんぎゃ)の旅に
出ることになりまして、彼らの道中の様子はいつからか世間の耳にも届くようになり、
その活躍を描いた絵草子(漫画みたいなもの)は、たちまちのうちに大人気となり、
その人気と勢いはガンガン、とどまるところを知りません。


「で、おっかさんを生き返らせるんだか
 元の体にもどりたいんだか、どっちなんだい?」


とくに勝気娘は、水に浸かるとふたつのものがプカプカ浮いてるとかで、
世のおたく…いやいやおとこどもからたいそう人気を集め、さらに兄弟と同じ
からくり師の仲間で、火付け棒の伊達(だて)男に連れ合いのお堅い女、
むさ苦しい筋肉男と、まるでその筋の数寄(すき)好みにこたえるように
おともが加わり、彼らの人気と勢いはガンガン、とどまるところを知りません。
まさに「うなぎのぼり」とはこのことでございました。


「で、おっかさんを生き返らせるんだか
 元の体にもどりたいんだか、どっちなんだい?」


兄弟とおともの行脚(あんぎゃ)の旅は思いつきの行き当たりばったり、
目的はどっちつかずだが、話はどんどんでかくなる。
はるか彼方の遠国(えんごく)で生まれたからくり人間も出てくれば、
からくり師の寄り合いが仲間同士で大ゲンカをおっ始めたりもするのです。
それでも彼らの人気と評判はガンガン、とどまるところを知りません。


「で、おっかさんを生き返らせるんだか
 元の体にもどりたいんだか、どっちなんだい?」


で、なんだかんだありまして、兄弟二人が結局どうなったのかと申しますと、
なんとめでたく元の体にもどるはこびと相成りましたのでございます。
何やらずいぶん唐突な話だなと思えばそれもそのはず、
どうやらいつでも好きなときにもどれたようなのです。


「じゃあ今までの何だったんだ?何がしたかったんだ?」

誰もその問いに答えてくれるものはおりません。連中あれだけ大騒ぎしていたのに、
終わった途端みんな潮が引くようにサアッ、といなくなってしまったのです。


「もうしらね」

そういってほうり投げた匙(さじ)は、
目にも鮮やかな銀(ぎん)だったということです。


とっぴんぱらりのぷう

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再録は、既に出来上がったものを多少書き直すだけなので、意外と早く終わります。
それにしても「ふたつのものがプカプカ浮いてる」なんて子供相手にサラリと
妙なネタを仕込んでくれたもんです。改めてナイスなじじいだったと思います。

ところどころなんだか思わせぶりな表現がチラホラ見え隠れしてるような気もしますが、
子供だった当時に、意味も分からず聞いたままの話を思い出して書いているだけなので、
何かカンニサワルようなことがあったとしても、それは自身の認識に起因するものであり、
単なる自意識過剰の被害妄想というヤツです。

終わってから何年も経つのに誰に聞いても
まともな答えひとつ返ってこないのは事実なんですがね。


こうして、まともな人間にとってはまるでカルト宗教みたいなブームがあまりにも
不気味過ぎて、今も昔も関わる気にはなれませんでしたとさ。

めでたし、めでたし…?

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