一日家に居るのは好きじゃはない

けれども 

出かければ出かけたで

 

歩道を歩いていて後ろから自転車にぶつけられそうになる

 

書店で立ち読みをしていると中年男が無遠慮に寄ってくる

 

エレベーターを下りようとすると女子高生らしき二人が乗り込もうと立ちはだかる

 

電車に乗れば声高にしゃべる目障りな集団

 

雑踏の中で歩きタバコをするヤツ

 

喫茶店で本を読んでいると中年女らの下卑た笑い声

 

デパートではエスカレーターを歩く空者

 

「ありがとうございました」と言わないコンビニの店員

 

スーパーのレジ前で後ろからカートに押される

 

レストランで後から来た客の注文の料理が先に運ばれる

 

永年会わなかった、会いたくない相手と遭遇する

 

それでも

一日家に居るのはやっぱり好きじゃない

 

同窓会に出席するのは彼にとってはじめてのことだった

会場にはすでに多くの顔があった

一様におおよその見覚えがあったものの

さながら浦島太郎の気分だった

 

クラス名が記された丸テーブルに向かうと

そこには何人もの同級生らがすでに席についている

すぐにわかった顔がありそうではない顔もある

空いていた席の隣にはTがいた

いっときは小旅行をともにしたこともある間柄だった

しかし いつしか疎遠になっていた

年相応だったがあまり変わっていなかった

 

ー久しぶりだね

ーそうだね

ー詩はまだ書いてる?

ーうん、ブログにも上げてる

ーそう

Tにはそれ以上の関心はないらしい

 

彼はウーロン茶で乾杯をし

大して旨くもない料理をひたすら食べつづけた

宴は一時間半でお開きとなり

そこここで二次会はどうするのか話し合っている

 

ーじゃあまた

軽く片手を上げてよこすT

ーじゃあね

彼が応えるとTは或る集団の方へと歩いていった

 

会場の外には初冬の風が吹いていた

卒業式の日 一緒に帰る者もなく

一人きりだったことを彼は思い出していた

落ち葉の降りしきる林の中を歩いていた

何層にも重なり合う枯れ葉が絨毯のようだった

少し疲れていた

適当な場所に腰を下ろし両手を後ろについた

すると指先に柔らかな何かがー

咄嗟に立ち上がり目を凝らす

 

そこに二つ並んである幼い瞳

落葉に埋もれて二つの眼だけが見えている

人間の子どもの眼だ

周囲を見渡すとあそこでもここでも

小さな眼が光を放っている

一体どれだけの子どもたちが

この一帯に身を潜めているのか

一斉に起き上がってこないか

急に不安になる

 

その時いきなり雨が降り出した

次の瞬間 次々と眼は閉じられて

それが五百円玉に変わっていった

一枚を拾い上げる

とその先にも数枚の硬貨

見ればいたる所に五百円玉が落ちている

それらを夢中になって拾い集め

ポケットというポケットに詰め込んでいく

尻ポケットにもジャケットにも

 

久しくなかった至福のひととき

込み上げる笑いが止まらない

自分の高笑いで目が醒めた

 

ちょっと嫌なことがあると

すぐに人生を投げ出したくなる

それはつまりこの世からおさらばするということだが

決行は極めて面倒なことなので

胸の中で「死にたい、死にたくなった」と

いつまでも呟いていると心がいくらか麻痺してくる

 

数年前に命を絶った知人には

もっと深刻な何かがあったんだろうし

それを吐露できる場がなかったのかもしれない

 

なかなか夏が終わらないという異常が通常になるらしい恐怖

腐り切った政治がいつまでつづくのかという失望と憤り

環境の破壊 生態系の破壊 人間社会の分断と破壊 への絶望

 

ちょっと嫌なことがあると

すぐに人生を投げ出したくなるのは

それらのせいでもあるのか

 

それでもこんな拙い詩を書くことが

微量のカンフルになる

マンションの一室

彼女はでたらめな番号に電話をかける

何回も何回も

相手が出るとすぐさま受話器を置き

また別の番号をプッシュする

 

ときには誰も出ずに呼び出しがつづく

するとコール音が鳴り響く部屋というものを

いろいろと想像してみる

 

それが就寝前の日課のようなもの

それからコップ一杯の水を飲み

耳栓をして眠りにつく

 

真夜中に絶望的な気持ちから

目が覚めてしまうこともたまにある