ボクは公園の片隅に

ひとり座っている

 

何時間もそこにいるが

待ち合わせの約束がある訳ではない

 

あるとしたら

何かの出会いがあるかもしれない

という淡い期待

 

短い一日の陽が落ち

辺りがすっかり暗くなっても

やはりひとり

まるで捨てられた子猫のような気分

 

しかし大のオトナがミャオミャオ

泣く訳にはいかない

確かにそいつは言っていた

ー迷い込んだだけなんです

それなのにいきなり

両手でそいつを叩きつぶしてしまった

いつもなら追い払うなり両手で包み込むなりして

外に逃がすのだが

 

朝のニュースに腹を立てていたのか

家人の何かが気にくわなかったのか

なにより一刻も早くパソコンを立ち上げたかったところを

そいつはフラフラと目の前を飛びまわっていた

 

両手を開くと

ただのシミのようにつぶれていた

それをテッシュで拭いゴミ箱に捨てた

 

ー迷い込んだだけなんです、ボクは

オスなら血は吸わない

なんか気の毒なことをした

 

その夜 夢を見たが

ヤツが出てくるというオチはなかった

和代さんに会ってみたいと思った

高校を卒業した春に

初めてデートというものをした

その相手が和代さんだった

キュロットから伸びた脹脛が眩しかった

 

電車に乗って街に出

二人で決めてあった映画を観に行った

 

そのあとデパートの各階をめぐり

最上階で食事をした

それは少し苦痛な時間だった

それまで家族や友人たち以外の人と

食事を共にしたことがなかったから

しかも二人きりで

 

それから❘

それからのことは覚えていない

 

今日四月十二日は彼女の誕生日

和代さんに会ってそれからどうしたのか

訊いてみたい

エミさんを見かけたのは

中学時代以来のことだった

エミさんは本を片手に信号待ちをしていた

そんな年ではないのに

猫背気味で少しだけ老いを感じさせた

心の病を負ったと人伝に聞いたことがある

 

同じブラスバンド部でクラリネットを担当

二つ年上だったエミさんは

知性的な大人の女性に見えた

休憩のときにはよく本を読んでいた

物静かな感じながら

その横顔は自信に満ちていた

 

信号が変わりエミさんが歩き出す

歩幅のせまい足取り

ボクは立ち止まり次の信号を待った

そして

その後ろ姿に向かい

心密かに声をかけた

 

ー鮮明に覚えてます

 確かに輝いていた

 あの頃のことを  

休みの日 あてもなく歩いていると

馴染みのある路地に出た

 

地下鉄駅から数分の住宅地 

木造アパートの二階で

男が手すりに片肘をかけ往来を眺めている

 

まもなく男がひっこむと

入れ替わるように女が顔を出した

美人でもなければ不細工でもない

 

数年前まで自分が住んでいた部屋だ

そこに女がやってきたことはなかった

就寝前にはネガティブなことばかり考え

午前一時をまわることもあった

それでも決まった時刻には起き出して

ネクタイを締めスーツを着て

早めに部屋を出た

途中の喫茶店でモーニングを頼み

職場に余裕をもって入った

 

アパートの前を過ぎ

少し歩いてから振り返ると

俯き加減の男の顔があった

表情のない灰色の顔

 

それが自分のように見えた