●キメラ~満洲国の肖像 @山室信一 | ★50歳からの勉強道~読書録★

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本は友達。一冊一冊を大切に記憶に留めておきたい。

満洲国の存続は1932年3月1日から
1945年8月18日までの、僅か13年5ヶ月。
敗戦により、皇帝溥儀が退位宣言し
9日のソ連侵攻、引き揚げ、シベリア抑留、
残留孤児、、凄惨な終焉はよく知られるけど


・・・・満洲国とは一体何だったのか。
作者はそれをギリシャ神話の
頭が獅子、胴が羊、尾が龍の怪物キメラに
なぞらえるけど、ツギハギだらけの
壮大な虚構であったことは間違いない。





そもそも何故、満洲なのか。というと、
日露戦争の辛勝により、ロシアから獲得した
旅順・大連など関東州の租借権、
長春―旅順間の南満洲鉄道と付属地、
撫順・煙台炭鉱の採掘権等の権益を守るため。


この権利は
「十万の生霊、二十億の国帑(国庫金)」により
購われた、かけがえのない大地であり
「明治大帝の御遺業」を継ぐのは「国民的使命」
と考えられたんだ。うん、それはワカル。


万里の長城・山海関に建てられた碑





さらに対ソ戦略の拠点であり、
来るべき総力戦の為の天然資源用地でもあり
朝鮮統治の安定や、赤化防止の為にも
ここを死守することは、=日本の死活問題
であった。それも確かに、間違ってない。

日本がここで頑張っていなければ、
ソ連は躊躇なく侵略しただろうから。



ただ、読んでみたら五族協和だ、共存共栄だ
は結局、後付けの方便で、
満洲国はまごうことなき傀儡政権だった。
これは悲しくなるほど、ダメだったなぁ。


僕も行くから君も行け。




そもそも石原莞爾は満洲国にも溥儀擁立にも
大反対だったんだ。
満洲事変を起こした時の彼の構想は、
ソ連の軍備が整う前に一刻も早く実力行使し
満洲をハッキリ軍事的に占領しちゃうこと。
→建国ではない【領有案】

もちろん主権は中国にあるので、
戦国大名チックな問答無用の武力制圧だ。


当時中国は辛亥革命後20年、全く治まらず
◆民の苦しみの元凶は張学良の軍閥政治だ。
◆中国人には国家を作る資質が無い。
◆誰が統治しても構わない、という民衆観。


・・かよう中国人は国家意識に欠けている。
なら、日本式統治の方が民は幸せだ、という
口実で=(幸福後見主義)、日本が盗って
しまおう・・・って誠にストレートな戦略。

新京(長春)の関東軍司令部




で、実力行使したものの、結局それでは
国際的な理解が得られない、、となり、
日本政府や関東軍は、満洲を中国から分離し
「独立国家です」と言える体裁を整えるのに
躍起になっていくんだなぁ。→【独立国案】


それでも本当に民族共和、王道楽土を
目指す人達は、沢山いたんだ。
でも、本庄繁や石原莞爾は転出させられ、
満洲青年連盟も排除され、
武藤信義、小磯国昭の着任で一変する・・(*_*)

「北方の真珠」大連は、アスファルト鋪装、
水洗便所、セントラル暖房の快適都市生活。




石原莞爾は転任後、日中戦争拡大を止めよう
として東京の参謀本部で孤立し、
今度は逆に満洲に〈左遷〉される。1937年


5年ぶりに見た満州の実情には
よっぽど頭にきたんだろう、、

橋本虎之助を「猫之助」、東條英機を「上等兵」
片倉衷を「満州国の王様」
関東軍司令官の官舎を「泥棒の親分の邸宅」
と次々罵倒し、日系官吏の減俸!人員整理!
満洲国を満人に譲渡して自治に任せよ!
なんて言って、また干されてしまうんだ。
全部正しいけどねぇ。。

満洲国行政の中枢、国務院




満洲では「関東軍の暴走」ばかりが強調される
けど、実際には国の意向も常に同じだった、
という事も読んで解ったよ。


張作霖だって、従わなければ排除するぞ、
って方針は中央の決定だったし、
満蒙を支配下におかねばならない、ことも
国の一致した認識だ。


ただ実際の行動!となると東京は及び腰で、
外交交渉も埒があかず、、、
日夜、抗日勢力の危険に瀕する現場では
業を煮やし、やるしかない!と過激になった。

満鉄のシンボル、特急「あじあ」は世界最速!
後の新幹線の基となった。




1920年代から、満洲の地は
「極東の弾薬庫」「民族問題の十字路」
「紛争のゆりかご」と言われる闘争場で

日本の満蒙租借権は期限切れだ!と主張する
中国人が、国権回収・排日運動を激化させ、
朝鮮からは、日韓併合で土地を失った人が
沢山流入して、共産主義と連動したり、、

正に満洲は  「反日運動の策源地」だった。
関東軍が殺気立つのも無理ないのかも。

満鉄病院は東洋一の規模




満洲事変であっという間に全土征服したり
満洲国が短期間に大発展を遂げたのは
裏で満鉄の協力があったからだという。


満鉄は半官の国策会社で、総裁や理事は
日本政府が任命する。
全土に渡る満鉄社員の情報網や、中国人脈を
利用して、全ては実現されたんだなぁ。


そして戦後もこの満洲人脈は、日本に
隠然たる影響を及ぼし続ける。

掲げた理念が崇高であればあるほど、
満洲国の裏と闇は深~いのかもしれない。