●縄文の神秘 @梅原猛 | ★50歳からの勉強道~読書録★

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本は友達。一冊一冊を大切に記憶に留めておきたい。

長い寄り道の末、ようやく古代に戻る。
もともとこっちが目的なんだが、
その他の時代が面白すぎて。



これは梅原先生、2013年の本だけど、
内容は1989年の「人間の美術 ①縄文の神秘」
から、梅原先生の部分を抜粋したもの。


なので終始、美術的な見地から
縄文土器や土偶の美しさや、意味を考え
写真も沢山掲載されている。





昔から縄文土器の “美しさ” に魅せられる人は
多かったけど、かの岡本太郎が
「日本においてただ一つの優れた芸術」、と
熱狂的に賞賛したことで、
縄文土器は「芸術」の高みに上ることになる。


「火焔型土器」  新潟県笹山遺跡  縄文中期
岡本太郎が絶賛。爆発してるよねー






岡本太郎はパリで抽象芸術を学び、
ピカソを尊敬している。
そのピカソが抽象芸術を創造したのは
黒人芸術の影響、なんだって。


マムシの這う土器  長野県尖石遺跡  縄文中期
八ヶ岳山麓付近の「勝坂式土器」は
蛇を中心に、動物紋様が多い。





でもね、顔と胴体のバランスが異常で
人間と動物が交じった姿は、
黒人が心を込めて作る「祖先の霊の像」なのだ。


それをピカソはデフォルメされた人間と
誤解し、(あるいは故意に誤解し・・)
前衛的な芸術へと高め、
それを学んだ岡本太郎が、縄文土器に
打たれる、、てワケ。


ピカソは祖先の霊なんか信じないだろうけど
日本人である岡本太郎が、縄文土器に
感じた精神性は、きっと黒人のそれと同じ。

六段くびれの大深鉢  長野県藤内遺跡  
縄文中期  蛇を中心に複雑な表現




梅原先生の美術講義も勉強になるよ。

19世紀末にリアリズム芸術は完成し、
これを崩して、新たな芸術を創造せよ、
という芸術運動が始まる。


この第一歩がゴッホ、ゴーギャン、セザンヌ
の印象派で、日本の浮世絵の影響を受けて
画面を光と色に解体した。

渦巻きのわきあがる深鉢  長野県曽利遺跡
縄文中期     モチーフは蛇? 曲線の躍動感




さらにそれでは不十分!と、ピカソは
一切の具象的な形を否定し、黒人芸術に
ヒントを得て、色と形で自由な芸術を創る。


こうして発生した抽象芸術が、約一世紀間
世界の芸術界を風靡し、日本においては
岡本太郎がその輝ける旗手となったんだ。


有孔鍔付土器   カエルの模様らしいが、
赤塚不二夫の蛙のオバケ  「べし」に似てる。





そして何より、縄文土器は世界最古なのだ!
新式のカーボン鑑定によると、
メソポタミアの8000年前より4000年も古い
1万2000年前。(wikiには1万6000年と・・!)


この測定結果を学者たちは信じなかった。
日本文化は海の外から来たもの、でなければ
ならない・・と、メソポタミアから3000年後の
5000年前、てことにしよう。と。(*_*)

でも今や、測定は正しい。と証明された!


縄文時代草創期→1万2000年前~7000年前
前期→    ~5000年前
中期→    ~4000年前
後期→    ~3000年前
晩期→    ~2000年前  となる。
日本ってスゴくスゴく、古いんだよ。
メソポタミアよりずっと古い!   不思議だ。

千葉県加曽利貝塚の加曽利B式土器  縄文後期
「注入土器」  なんと把手付きのほぼ土瓶。
デザインも磨消紋様で洗練された。








そして梅原先生は
「日本の土偶ほどおもしろいものはない」 と。
どの国の物とも全く違い、
縄文早期から晩期まで数限りなく生産された。


「ハート型土偶」   群馬県郷原遺跡   縄文後期
まるっと岡本太郎の太陽の塔やね。




土偶は不思議なのだ。

全て女性。ほぼ妊婦。腹にたて線がある。
全て壊されている。完成品はほぼ皆無。
丁寧に埋葬された土偶も、一部壊れている。
さあ、なんと解く?

「ミミズク型土偶」  関東独特の形。縄文後期
埼玉県真福寺貝塚



土偶は傷つけるために作られるのか。
おもちゃでもない。装飾品でもない。
神様でもない。単なる呪物でもない。

「遮光器土偶」    青森県八日町遺跡   縄文晩期



どうしても子供の出産に関係があると思える。
生命の再生?祖先の霊送り?
もしかして、腹を割って子供を産む?



山型の頭をした土偶   群馬県天神原  縄文後期




梅原先生は 「土偶は死んだ人間だ」という。
そして「沈痛な表情をしている」 と。


縄文土偶に沈痛な表情を読み取らず、
ただ素晴らしい、と賛美し、単に
遮光器をつけたイヌイットの姿に見立てて
「遮光器土偶」なんて名付けたのは、

人間の精神に鈍感な、近代人の発想だ・・・
と、梅原先生は嘆いているよ。


臨月間近の土偶    青森県宇鉄遺跡   縄文後期



あの世とこの世は、あべこべの世界。
この世で完全なものはあの世で壊れる。
この世で壊れたものはあの世で完全になる。


死と再生に深く関わる、思いやりの思想。
そして、その根源をアイヌに見る梅原先生の
哲学、宗教、歴史、美術の授業。面白い。


縄文って、日本って、深いなぁ。
世界最古の人類文化・・だったりするのかな?
急に足下が気になる。えらいこっちゃ。