●パンとペン~社会主義者堺利彦と「売文社」の闘い @黒岩比佐子 | ★50歳からの勉強道~読書録★

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本は友達。一冊一冊を大切に記憶に留めておきたい。

大逆事件のことを知りたいな~。。と
調べていたら、この本を見つけた。


作者の黒岩比佐子さんは、私の一歳上の
女性。すごいな~。興味わく~。。でも
私は堺利彦も売文社も知らなかったんだ。


堺利彦は盟友の幸徳秋水とともに
1903年10月平民社を起こした
週刊「平民新聞」の発行兼編集人で、
秋水、大杉栄以上に社会主義の
キーマンたる人物なのであった。





もともとは小説家志望。堺枯川(こせん)の
号を持ち、海外文学の翻訳も多数。
バーナード・ショーのピグマリオン
(マイフェアレデイの原作)や、
ジャック・ロンドンの野性の呼声を
日本で初めて紹介した。


幸徳秋水や内村鑑三が看板記者を
務める「萬朝報」に入社後は
「家庭の新風味」「家庭雑誌」など発刊し、
「ペンの力で世の中を変えること」に
情熱を傾けるようになる。


下女をおくのはやめよう、娘も早婚をせず
学芸を修めよう、結婚後は共働きが良い、
妾を囲うのはけしからぬ。男女同権、
今後はドシドシ制裁するべし。。


ざっくばらんな文章で思わずクスッとさせる
のが持ち味。後世  「日本一のユーモリスト」
と呼ばれた、堺の卓越した文章力。
優しく、慈愛に満ちた人間力。






日々の生活を幸せに営むこと、、堺はこの
延長に社会主義を見る。人類平等の思想。
家庭の中から社会主義を発達させよう!



日露戦争が始まると、新聞各紙はこぞって
戦争を煽り立てる。最後まで残った萬朝報も
ついに主戦論に転じるに至って、
内村、秋水、堺は揃って退社を決意する。


以後、秋水と共に自由・平等・博愛を掲げ、
平民新聞で唱える非戦論。当時これは
とても勇気の要ること。社会主義者は
政府の弾圧の対象となっていった。。。






社会主義者には「犬」と呼ばれる尾行がついた。
これがまた、社の前に紅白の幕を張って
待機し、公然と付いてくるんだって。


だから姿が見えないと逆に心配したり?
知らない土地では「犬」に道を聞いたり、、
そのうち、堺の人柄に惚れ込み、個人的に
尊敬してしまう「犬」も現れた。(=^ェ^=)


堺は生涯に5度入獄しているが、獄中読書に
励む堺の姿に打たれ、社会主義者となり
売文社を手伝う、元看守もいたという。








大逆事件(幸徳事件)が起きたのは1910年。
堺と大杉は獄中にあり、難を逃れたのだ。


天皇暗殺計画は実際にあったのだが、
当事者は4人のみ。その他はでっち上げに
よる連座で、幸徳秋水は狙い打ちだった。


逮捕から半年後に特別裁判。いきなり傍聴
禁止で24人に死刑判決、翌日天皇特赦で
12人は無期懲役に減刑。残る12人はなんと
6日後にスピード処刑された。


幸徳秋水

平民新聞創刊号の記事  「枯川と秋水」。

「内に於ては枯川の旦那に秋水の細君
 外に向かっては秋水の主人に枯川の夫人」
・・・・・
判決の日、堺は珍しく荒れ狂った。





その後10年続く「冬の時代」。堺は社会主義者
残党の生活を養うべく「売文社」を興す。
自嘲的で人を食ったネーミング。


文章を売って、お金を貰い生活しますよ。
社会に対しては猫をかぶってますよ。
何も悪いことしてませんよ。  てか。


売文社は  “文筆なんでもござれ引請所”
代議士の演説原稿、帝大生の卒論、
足袋屋の広告、名付け、手切れ金の請求書・・
堺だからできる当意即妙の早業芸当だ。


若き日の尾崎士郎も入社、のち「人生劇場」
などの小説で売文社をモデルにしている。




そして堺は再び、闘いの狼煙を上げる。
「へちまの花」    またもや、妙な名前。
花のまちへ、とも読める。
へちまの絵は絞首刑にも見える。
自分の写真は黒縁。

主筆・堺利彦、編集長・貝塚渋六(堺利彦)


貝塚は刑務所の場所。しぶろくは獄中飯が
四分六だから。(南京米四割・麦六割)



パンに刺さったペン。
堺の母校・共立学校(現開成高校)の校章は
「ペンは剣に優れり」  これが元ネタ。






常に一緒だった語学の天才・大杉栄は
過激なアナキストになってゆき、
関東大震災のどさくさに虐殺される。


堺はこの時も獄中で難を逃れる。  
晩年、2度襲われたが、重傷ですんだ。
堺利彦があまり有名でないのは
劇的な死に方でなかったから、、かな。


この本は著名人の名前が沢山出てきて
堺の存在の大きさがわかるし、
知らなかった事をいっぱい教わった。


なのに


作者の黒岩さんは、後書ですい臓がん告知を
受けたことを明かし、この本の刊行翌月
この世を去ってしまったんだ。
2010年11月。享年52才。


黒岩比佐子さん




本を読むことは、一冊一冊、どうして
こんなにも心を動かし、涙が出るものか。


堺さん、黒岩さん、
文章を書き、人に伝える仕事をする、
という覚悟。決意。私は心から尊敬します