前回のあらすじ
母君からの御返事は無作法なものでしたが、帝は心が冷めやらない時のことと寛大に御覧になります。帝自身も取り乱すさまを隠しきれず、更衣と出会った頃からの思い出にひたり、こんな状態でよくも月日を過ごせたものだと自分に呆れるのでした。
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第1帖 桐壺(20)
現代語訳
「亡き更衣の父・大納言の遺言に背くことなく、宮仕えの志を深くまっとうしてくれたことへのお礼は、その甲斐があるようにと絶えず思い続けてきたのに、今となっては言っても仕方のないことよ」
と、帝はふと仰せになり、母君をたいそう哀れに思いやります。
「こうはなっても、そのうち若宮などが成長すれば、しかるべき機会もあろう。命長く、生きてさえいればと、一心に祈るとしよう」
などとおっしゃいます。
命婦は母君からの贈り物を帝に御覧に入れます。亡き人の住みかを探し出したという証のかんざしであったなら、とお思いになるのも甲斐のないことでした。
尋ねゆくまぼろしもがなつてにても
魂のありかをそこと知るべく
亡き更衣の魂を探しに行く幻術士が現れてほしいものだ。
伝説であっても魂のありかをそこと知ることができるように。
※まぼろしとは
白居易の漢詩「長恨歌」で、楊貴妃の魂を探しに行く幻術士のことです。冥土で魂に出会った証拠の品として、皇帝にかんざしを伝えました。母君が更衣の形見として渡したかんざしを見た帝は、魂に出会った証であったならと思いをはせるのでした。