旅立ち
ほとんど寝ている状態となった母
お尻の床ずれが痛くて
体位を変えていたが
それさえも拒否するようになった
何もしなくていい
朝測った血圧が
上が107と低かった
看護師さんが
それを母に伝えると
不安気に
低いね
と言った
私は看護師に呼ばれて
今後、母には血圧を伝えないということに
同意した
お昼には100を切り
言っていることが
現実では無いことが多くなってきた
苦しそうに息をし
枕元に来る人を追い払って欲しいと言った
知ってる人?
と聞くと
知らない
と答えた
布団をめくった右太ももに
広範囲にわたる紫の塊を見た
赤い発疹で痛い痛いと
叫んでいたところだ
いつからあんなになってしまったのだろう
見るからにいたそうなそれは
反対の足や
腰の部分にも現れ
身体が蝕まれているのがわかった
早く楽になって欲しい
いかないでほしい
そんな気持ちが交互に現れた
ふと、長男に
母の顔を見たい?と連絡した
見たいと返事がきた
病院で会うことは叶わないが
話せるのは最後かもしれないと
母の孫4人、全員に電話をし
母にありがとうを伝えた
孫の声を聞くと
表情がはっきりし
孫の名前を呼び
ありがとうねと
弱々しい声ながらも
答えることができた
看護師の計らいで
父を呼んでもいいことになった
母に
会いたい?
と聞くと
うなづいた
程なく父が到着し
対面することができた
もう、会えないと思ったよ
と、泣き出す父
それに頷く母
優しくしてやれなくてごめんな
いいのよ
無理言ったりしてごめんな
いいのよ
母の手をずっとさすり続ける父
ごめんな
ばかり言うので
ありがとうをいっぱい言ってあげて!
その方がいいよね?
と母に聞くと
何度も頷いた
いっぱいありがとう
いっぱいいっぱいありがとう
テレビは二人の大好きな
笑点が流れていて
座布団10枚たまる
晴れやかなシーンだった
BGMには最高だ
ずっと立っていた父は
足腰が痛くなってきて
辛そうだったので
そろそろ行くねーと言ったら
強い口調で
まだ帰らないよ
と言われた
ただただ二人の時間が流れていた
バンキシャが中盤になった頃
父が
足が痛いから帰るね
また来るね
と、声をかけた
手を振る母
その後
会いたい人に会えた安心感からか
深い呼吸になり
血圧が下がり
目を突然開けても
私たちと視線が合うことはなかった
苦しそうな息遣い
お腹を出して頻繁に摩る手
眉間に皺を寄せるので
モルヒネの量を増やしてもらった
今までお世話になった看護師が
たくさん思い出を話してくれた
母の名を呼び
どうして?と泣いてくれた
看護師は皆、母が好きで
母に支えられていたと言ってくれた
母の生き方から学んだと言ってくれた
私と妹が
ふと眠りに入ったのが午後11時頃
午前1時頃に看護師さんに起こされて
もしかすると
もうすぐお迎えが来るかもしれないので
手を握って声をかけてあげてください
と言われた
飛び起きた私たち
冷たくなってきていた手を握った
祖父母を見送った時のように
顎で呼吸をし
一度止まり
その後大きく息を吸った
旅立った瞬間だった
1時半
医師により確認
1時52分
御臨終です
1年1ヶ月という長くて苦しい闘病生活が終わった
と同時に
母のこの世での旅が終わった
最後にお風呂に入れてあげたかったが
紫の塊がただれ落ち
出血していた
皮膚がめくれるかもしれないとのことで
お風呂は断念した
どんなにか痛かっただろう
それに対して
優しくしてあげられただろうか
涙が止まらない
頭を洗い
体を拭き
大好きだったワンピースに着替えて
メイクアップをしたら
いつもの華やかな母に戻った
その顔は口角が上がり
笑顔に見えた
お疲れ様
また
また
また絶対に会おうね
そっちの楽しいところ
探しておいてね
私たちがいったときは
案内してね
またね
血圧が下がってきました
入院して
モルヒネを入れてから
痛みが良くなってきた
意識はうつらうつらとしている
ふっと起きて
コーラ飲みたい
や
ここにはいない孫に
お帰り
と言ったり
家にいる感覚でいたり…
真綿に包まれたようで
気持ちいい
と言ったりする
せん妄 なのかな…
今朝は
血圧が下がってきた
看護師さんによると
このままゆっくりゆっくりと…と
私が顔を洗っていると
私もしたいなと言うので
看護師さんに
暖かいタオルを用意していただき
顔周りを拭いた
幸せ〜
良かった
今夜あたり
お迎えが来るのかな
幸せな気持ちで
旅立てるといいな
もう限界、病院に行くね…
昨夜
救急で病院にかかったけど
医師に帰ると言って
大人4人がかりで
連れて帰ってきた
今朝、9時に実家へ行くと
おしっこを出してみようかな
と言うので
ポータブルトイレに頑張って座らせてみたら
おしっこが出た
嬉しかった
まだ
一緒にいることができる!
そう思った
その1時間後
母は突然
今度、病院行ったら
入院するね
と言った
うん
としか言えなかった
その1時間後
今から行こうかな
涙があふれた
止まらなかった
母に
泣かないで
と言われたが
今だけ泣かせてね
と言って
泣き続けた
幸せだったよ
楽しかったよ
ありがとうね
私も
幸せだった
ありがとう
いつもごめんね
きちんと
お別れの挨拶をした
妹を呼び
デイケアに行っていた父を
自宅に届けてもらい
夫婦の別れの挨拶をした
が
父はよくわかっていなかった
母が
ありがとうね
と言うと
何言ってんだ
しっかり治しておいで
と言っていた
そして
その後
母の腕をギュッと握ったらしく
何してるの!と
最後まで母に
叱られる父だった
それが日常の二人
それはそれで良かったのかも
みんなが揃ったところで
救急車を呼び
病院へ行き
入院となった
医師からは
よくここまで頑張りましたね
お母様も
ご家族様も
と言われて
涙が決壊した
もう
血管から骨に
がん細胞がいっているので
全身痛いと思います
今後は医療麻薬を使って
身体を楽にしていきましょう
ただし
それによって
お迎えがきてしまうこともありますので
覚悟をしてください
今は病室で穏やかに寝ている
私と妹は
付き添いを許可していただいた
今日は病院へ泊まって
一緒に過ごせる
残り少ない時間
穏やかな時間を過ごそうね