シェールガス革命の激震度と黒いダイヤ再び? | 蓮華 with にゃんこ達

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専ら、マーケットや国内外の政治経済ネタが多くなってしまいました。
母と愛しい我が子達を護りつつ日々闘う中で思う事をアップしていきます。

今回のオバマ再選を決めたポイントの一つが、スイングステートであるオハイオ州。

FBでも少し触れましたが、ここ、正にシェールガス革命で最も恩恵を受けている、全米でも有数の景気の良い州だという事。
他にも、実はホンダが昔から操業している事で州内の安定雇用に非常に貢献しているという要因もあるのですが(それもあって失業率のブレが少ない)、やはり影響が物凄く大きいのは、この『シェールガス革命』な訳です。

既に2000以上の油井が稼働中で全米でも屈指の開発率を誇っており、物凄い数の雇用を生み出しているという事です。

前回記事で説明した人種的なクラスターで見れば、人口の90%が白人なので、逆にロムニー有利に見える所が、オバマ大統領の所謂『グリーン・エネルギー革命』提唱による新産業政策がハマり、成果を享受している州の中核として、現政権の支持が多数を占めた、という事でしょう。

これが『革命』と呼ばれる所以は幾つかありますが・・・

開発が急速に進んだのは2000年代半ば。2005年に石油の輸入は6割に達していましたが、リーマンショックで経済が冷え込み、シェール層から採れるガスや原油が輸入を置き換え始め、昨年は45%まで下がっています。これによってガスが大幅に値を下げ、恩恵が家庭に及んでいるのです。

シェール層にガスや石油が含まれている事は19世紀から知られていましたが、
採掘が技術的に難しくコストもかかるとされていた為、メジャーが見向きもしなかった、これにこだわったのが中堅企業。
ガス抽出に水で岩を砕く技術(水圧破砕)を開発したのがテキサス州のミッチェル・エナジー・アンド・ディベロップメント、水平に井戸を掘る技術(水平坑井)を進化させたのがオクラホマ州のデボン、で2002年にデボンがミッチェルを買収して技術をミックスさせる事で生産性を大幅アップ、+デジタル技術進歩による精密な掘削がプラスされるなど、改良・試行錯誤を続けてきたそうです。

リーマンショック前に石油価格が大きく値を上げた事もガス販売に追い風で、一気にシェールガス生産が進みました。

つまり、第一にはガス価格の大幅な値下がりが、家計にまで非常に恩恵を与えているという事。そして、第二には、その供給の主役は今までのような豊富な資金力を誇り、石油・ガス市場を牛耳るメジャーではなく、中堅企業だという事。

これは、シェールガスが従来型のガス田に比べて井戸1本当たりの産出量は少ないものの、開発着手から数ヶ月程度で販売を始められる、そして海底ガス油田などと比べると投資額も圧倒的に少ないので、意思決定の早い中堅企業にウッテツケだった、という訳。
パイプライン網につなげば、直ぐに最終消費者の下まで届く、正に『トヨタのようなジャスト・イン・タイム』と言われています。

アメリカでは土地所有者が地下資源の権利も持つので、開発のリース権を得た
業者は成功すれば大きな儲けを得られる為、高いリスクを負ってでも開発にチャレンジします。ハイリスク・ハイリターン狙いの投資家から資金を集めるのも比較的容易なので、むしろ独立系は技術革新を起こし続ける事に貪欲になれるという背景もありますね。

そして、もう一つ最大のポイントが、先日IAEAが発表した『世界エネルギー見通し』。2020年までにアメリカの原油生産量がサウジアラビアを抜き、天然ガス生産でも2015年までにロシアを抜き、世界最大になる、という内容。
この結果、2035年までに国内で必要とする全てのエネルギーを自給出来るようになる,という事です。

これは本当に凄い事で、現在のアメリカのエネルギー輸入額は世界最大で4600億ドルですが、これまた世界最大の経常赤字額がほぼ同額4600億ドル。
そればかりか、2030年には石油輸出国に・・・要は赤字がほぼゼロになるという事ですよ!!

だから、『ドル高』なんじゃないの?という話です。どっちにしろ、『財政の崖』なんてどーでも良くなっちゃうっしょ。

顕著でスピードも速い住宅投資の回復と、労働市場も一番大きかった政府セクターレイオフがピークを越え、ボトムをつけた、という所で、経済自体も来年央以降に向けて、ゆっくりと、でも着実に回復していく流れも考慮に入れると、という事ですね。

他にも影響としては、当然地政学的リスク、つまり今後中東の原油への依存度が低く(ゼロに)なる=中東情勢への関心が低下するという事なので、まあ今また
キナ臭いですが、ここも、色々な形で影響が出そうですねえ・・・

翻って日本・・・

最近俄かに注目され始めているのが・・・石炭です。
コレ、実はオハイオではシェールガスと対照的に落ち込んでいる産業ですが、沢山ある、世界中にある、安い、という3拍子揃ったメリットがあります。

量的には、世界の電力消費量120年分、8609億3800万トン。地域的にはアメリカが最大で2373億t、その他にも欧州1470億t、ロシア1570億t、豪州764億t、インド606億tなど。つまり中東依存で無くなる分、地政学的リスクも無くなりますね。

そして、日本にも、201億トンあります。これは日本国内の消費量112年分。その内半分が北海道、約4割が九州だそうです。

特に北海道の石炭は露天掘りで採れる、つまり坑道を掘る必要が無い=コストも安い。

石炭には二種類あって、瀝青炭という質の良いモノ=水分が10%以下、当然燃焼効率がよくカロリーが高い訳ですが、これが採掘量全体の89%を占めます。
で、もう一つが褐炭で水分が50%以上含まれている低品質なモノで、全体の
10%位。当然燃焼効率も悪いし、土のように脆いので崩れ易く、しかも水分が
多いので蒸発する(瀝青炭は固い石のようになっているので、そういう事はありませんね)。すると自然発火し易くなってしまうので、輸送や貯蔵が難しいなどの難点が多くて使えなかったそうなんですね。

でもこれが正に夕張を含む石狩炭田で採れる、そして、より地表に近い所にあるので採掘もし易いし当然さらにコストは低くて済む訳です。

で、この使い物にならなかった褐炭を使って、石炭ガス化という技術開発に成功し、現在実証炉でプロジェクトを行っているのが新日鉄住金エンジニアリングです。

褐炭のメリットは、当然市場に殆ど出回らないので、元々LNGの3分の1位の一般炭(原料炭)の、さらに10分の1~20分の1で調達出来ること、ガスに変えれば、輸送、貯蔵が簡単になるので、利用価値は一気に高まります。

そして、二重で発電出来るというメリットもあります。通常の石炭発電の場合、石炭をボイラーで燃焼し、水蒸気を作って蒸気タービンを回して発電、蒸気機関車と
一緒です。

間にガス化炉を入れる場合は、まず石炭をいったんガス化する段階で、ガスタービンを回して発電、それに加えて、また蒸気タービンを回すことでもう1回発電する、2倍ということですね。

もう一つ、ガス化によって発生する合成ガスがあります。これは多用途に使えます。もちろん、発電も出来ますが、液化して様々な原料になる、LNGとか、ディーゼルとか、化学原料にもなるというので、ドンドン進めています。

そしてもう一つ、CO2削減効果もあります。効率アップした分、原料の石炭消費が減るので、5パーセントくらい削減出来ます。

原料の安さ、技術的に消費量を少なく出来る、等トータルコストは一般炭の発電より2~3割安くなる見込み。

そして、石炭だけじゃないよ、というプロジェクトも・・・。

閉山された夕張炭鉱などに残っている石炭層。石炭層には、ある程度深い所にメタンガスが沢山含まれています。
メタンガスは天然ガスと同じ成分なので、当然発電が出来ますが、最近になって、この石炭層に含まれるメタンガスを効率よく取り出す技術が開発されており、それは石炭層に二酸化炭素を注入して、メタンガスを追い出す形で取り出すというモノ。

石炭への吸着率がCO2の方が3倍位高いので、石炭に付いていたメタンが剥がれて追い出されるという仕組み。
この炭層メタンを利用する事のメリットが、正に二酸化炭素を全く出さずに、エネルギーを生むというシステム=ゼロエミッション発電。

メタンガスで発電して発生したCO2を、そのままボーリング構に注入する、という循環型にするだけ。

現在北海道に残る炭田で最もガスの多い炭田が石狩炭田で、約400億立方メートルのガスがあると推定されており、北海道の消費量、約75年分位になるそうなので、正に地産地消の資源になりうる、一番厳しい状況に置かれている地域が一発逆転、という話にもなりうるという事です。

一般炭のCO2、悪者に仕立て上げられてる厄介者、を気にする向きが多い訳ですけど、それも地下貯留技術が実用化されていますので、問題はありませんね。

まあ前半のシェールガスの比べてショボイ感は否めませんが(笑)、それでも自給自足、もしくは世界中どこからでも調達可能な安い資源、『相対的な』円安になった場合の事も考慮すれば、真剣に検討する価値はありますよね