忘れ貝 | 雪太郎の「万葉集」

雪太郎の「万葉集」

私なりの「万葉集」解釈
カレンダー写真は「鴻上 修」氏撮影

 秋さらば我が船泊(は)てむ忘れ貝 寄せ来て置けれ沖つ白波

 巻15 3629 遣新羅使人

 秋になったら我らの船はここに停めよう。忘れ貝よ、憂さを忘れさせるというその貝を寄せてきて置いておくれ沖の白波よ。

海の上の船に揺られるわびしさを家郷思慕につながる来し方の地名を連ね「道行歌」とした長歌の「反歌」二首の一つ。

「御津」に(見つ)、「淡路」に(逢ふ路)、「明石」に(明るい心)、「家島」に(家)をからませて詠んでいます。

「忘れ貝」はアサリ、ハマグリなどと同じ「マルスダレ科」に属する殻長6cm位の薄紫色の二枚貝です。浅海の砂泥にすんでいます。日本近海で確認されているのは8種類です。化石種には「モシオワスレ」「シチヘイワスレ」など面白い名前がつけられています。現生種は「ミワスレ、タイワンワスレ、ランフォードワスレ」などです。

 「万葉集」などの文学作品では、(二枚貝の片方)を指す場合がほとんどです。「忘れ草」と同様に(憂さ)(恋の苦しさ)を忘れさせてくれる願いが込められています。

 「遣新羅使」は大化2年(646年)から承和3年(836年)まで28回派遣されています。「万葉集」巻15の大部分を占めており、難波を出帆後瀬戸内海を通り九州の能古島や対馬を経由して新羅に向かったことがわかっています。