心には忘るる日なく思へども人の言こそ繁き君にあれ(巻4 647)
心の中では忘れる日などなく思い続けていますが(とかく)人の噂の絶えないあなたですからねえ
心には忘るる日なく思へども人の言こそ繁き君にあれ(巻4 647)
心の中では忘れる日などなく思い続けていますが(とかく)人の噂の絶えないあなたですからねえ
ますらをの思ひわびつつたび数多く嘆くなげきを負はぬものかも(巻4 646)
立派な男子が思い悩んで何度もつく溜息なのにあなたのせいだと思わないのですか
「思ひわ(侘)ぶ」は(思い悩む、苦しく思う)。「数多(まね)し」は(数が多い、たび重なる)。
紀女郎が怨恨歌三首 鹿人大夫が女、名を小鹿といふ。安貴王が妻なり
世の中の女にしあらば我が渡る痛背(あなせ)の川を渡りかねめや(巻4 643)
もし世の常の女であったなら、私が渡る穴師川の瀬を渡る時に「ああ、あなた」などと嘆息して渡ることができないのでしょうか
「穴師川」に「あな(感動詞)背」が掛かっている。普通の女性がするような恋もできない嘆き。
今は我はわびぞしにける息の緒に思ひし君をゆるさく思へば(巻4 644)
今は私は侘しい思いでいっぱいです 命の綱と思ってきたあなたを引き留めることができなくなったと思うと
「ゆるす」は(解きゆるめる)、「息の緒」の縁語。
白栲の袖別るべき日を近み心にむせひ音(ね)のみし泣かゆ(巻4 645)
(交し合った)袖を引き離して別れなければならない日が近いので悲しみがこみあげてただ泣けてくるばかりです
「 むせ(噎・咽)ふ」は(のどにつかえるような声で泣く)。「むせぶ」の上代語。
我妹子に恋ひて乱ればくるべきに懸けて搓(よ)らむと我が恋ひそめし(巻4 642)
あの人に恋して心が乱れたならば糸車に懸けて心の搓りを直せばいいと思って私は恋し始めました
「くるべき(反転・蟠車)」は(糸車)。脚注によると、別れる時にはこう言おうと思っての表現で一種の負け惜しみ。
絶ゆと言はばわびしみせむと焼大刀のへつかふことは幸くや我が君(巻4 641)
二人の縁が切れると言ったら私がしょんぼりすると思ってずっと側にくっついておられますがそれで何ともありませんか、あなたは
「わ(侘)びし」は(物事が思い通りにならないことからくる落胆)、「わびしむ」は他動詞で(寂しがらせる、せつなく思わせる)。「焼大刀(やきたち)の」は(へつかふ)の枕詞。「へつ(辺付)かふ」の「へ」は(辺り、側)で(近くに接する)。「ふ」は(継続・反復)の助動詞。「幸(さき)く」は(無事に、変わりなく)。