真野の草原 | 雪太郎の「万葉集」

雪太郎の「万葉集」

私なりの「万葉集」解釈
カレンダー写真は「鴻上 修」氏撮影

  大伴宿祢家持に贈る歌

陸奥(みちのく)の真野の草原(かやはら)遠けども面影にして見ゆといふものを

 巻3 396 笠女郎(かさのいらつめ)

 陸奥の真野の草原は遠くの地にありますが(面影としてははっきり見える)と言われているのに(近くにいるあなたは)どうして逢いに来てくださらないのですか

 「陸奥(みちのく)」は、現在は「東北地方」の意味で使われていますが、元来は(東山道)の意味でした。「真野」は福島県南相馬市の「真野川」流域。真野川は「鹿島町」で太平洋に注いでいて、周辺は「漁港」になっています。「真野」は(真草の生えている野)を表す「普通名詞」でしたが地名という「固有名詞」に転じた例の一つです。「真草(まくさ)」は(茅葺き屋根に使われていた)ススキなどの美称です。真野で良質な茅が大量に収穫されていたことからブランドのようになり、やがて「歌枕」になったと想像されます。「万葉公園グラウンド」に、この歌の「歌碑」が建っています。公園の西側には斎藤茂吉が伝統行事である「相馬野馬追」の騎馬武者を詠んだ「みちのくの相馬郡(ごほり)の馬のむれ あかとき雲に浮けるがごとし」の歌碑も建っています。相馬野馬追では甲冑を纏った約400騎の騎馬武者が旗指物を背に行進し、雲雀ケ原祭場では「神旗争奪戦」が行われます。今年は5月末に3日間開催され、外国人も2名参加しました。

 「真野」は(家持と笠女郎)にとっては(未見未踏の地)であったと思われます。「といふ」から(遠い土地の比喩として「真野」が一般的に使われていた)と思われます。「見ゆ」の「ゆ」については(自発)の意味で使われることの多い助動詞ですが、ここでは(可能)の意味合いが強いと思われます。

 「草原」を(かやはら)と読んでいますが「ススキ」を指すと思われます。ススキは日本で最も個体数の多い植物です。