裕福な家の子 | 雪太郎の「万葉集」

雪太郎の「万葉集」

私なりの「万葉集」解釈
カレンダー写真は「鴻上 修」氏撮影

 富人(とみひと)の家の子どもの着る身なみ 腐(くた)し捨つらむ絹綿らはも

 巻5 900 山上憶良

 

裕福な家の子どもが着余して持ち腐れにしては捨てているだろう、その絹の着物は、ああ(もったいない)。

「富人」は漢語。「身なみ」は「身(を)無み」で、有名な「瀬をはやみ」と同じ(~を~み)の(を)が省略された形。理由を表しています。着物の数に対してそれを着る子供の身(数)が少ないので捨てているという説明と思われます。「絹綿」は(太い絹の糸の紬)で現在の「絹」よりは質が劣っていたそうです。「綿」の栽培は江戸時代からなので綿花ではなく「真綿」の意味と思われます。「ら」は複数で「はも」は(深い感動)を表す(終助詞)です。(・・よ、ああ)と上接する語を強く取り立てて示す表現です。自分の子どもは「麻」しか着たことがないのに高価な(絹の着物)を捨てるなんて何ということだと「貧富の差」に憤っています。

 憶良は、「老身に病を重ね経年辛苦」しておりましたが、「生」に執着する「心は燃え」ていて(思ひ煩ひ音のみし泣かゆ)状態でした。憶良74年の生涯の(総決算)として詠んだ三部作の一つです。