「穂(ほ)」に出づ | 雪太郎の「万葉集」

雪太郎の「万葉集」

私なりの「万葉集」解釈

 (しび)突くと海女の燭(とも)せる漁り火の穂にか出ださむ我が下思ひを

  巻19 4218 大伴家持

 鮪を突いて捕ろうと、海女がともす漁火のように、はっきりと表に出してしまおうか。この胸に秘めた思いを。

 「鮪突くと・・・・・漁り火の」までは「穂」を導くための序詞(じょことば)で(比喩)。「鮪(しび)」は、マグロだけでなくサバやカジキも含む魚の総称。マグロは釣るのではなく銛で刺して獲っていました。「明石」あたりの海でたくさん獲れたようです。「穂」はイネ科植物の(茎の先につく花や実)で人目につくことから(外にあらわれる)意味。「か」は係助詞。「む」は助動詞でここでは「意志」を表しています。「下思ひ」は心の中に隠して表面には出さない思い。

 テキストには、前歌とともに「景に興趣を注ぐ歌」という注が書かれています。前歌は「卯の花を腐(くた)す長雨の始水(はなみづ)に寄る木屑(こつみ)なす寄らむ子もがも(卯の花を腐らせるほどに痛めつける長雨、この雨のせいで流れ出す大水の鼻先に寄りつく木っ端のように、私に寄り添ってくれる娘でもいてくれたらなあ)」で、ともに天平勝宝二年(750年)5月に詠まれた歌です。「五月雨」の異名が「卯の花腐し」だそうです。「もがも」は(他への希望)を表す(上代)の終助詞で(中古)以降は「もがな」が用いられるようになりました。木っ端のような娘でもいいから寄ってきてほしいとは、寂しかったのでしょうか。また、どこに「興趣」を感じたらよいのでしょうか。