「蓮」を詠む | 雪太郎の「万葉集」

雪太郎の「万葉集」

私なりの「万葉集」解釈
カレンダー写真は「鴻上 修」氏撮影

 ひさかたの雨も降らぬか蓮葉(はちすば)に溜まれる水の玉に似たる見む

   巻16 3837 右兵衛の役人

空から雨でも降ってこないものかなあ。蓮の葉に溜まった水が玉のようにきらきら光るさまが見たい ※「似たる(さま)見む」と解釈しました

 「ひさかたの」は(天、雨、月、雲、光、都など)に掛かる枕詞。「右兵衛」の役人で歌を詠むのに長(た)けていると評判の役人が、官人を接待する宴会の席で食物をすべて蓮の葉に盛って出した所「その蓮の葉に関(か)けて歌を作れ」と言われたのに応じて即興で詠んだ歌です。「作主(つくりぬし)の未(いま)だ詳(つまび)らかならぬ歌」と書かれているので役人の氏名は不詳です。

 水が玉のようになる現象は、蓮の英語名(Lotus)から「ロータス効果」と呼ばれるそうです。蓮の葉の表面に数μmという超微細な突起物があり、その先端にワックスがついているためにこのような「撥水性」(自浄作用)を示すらしく泥やその他の異物を水滴が絡めとり綺麗な状態に保つそうです。以前は「表面張力」のせいだとばかり思っていて細かな仕組みについては考えませんでした。ロータス効果はヨーグルトの蓋などに汚れが付かない仕組みとして応用されているそうです。泥の中で育つ蓮の葉が何故綺麗なままなのかという視点で考えたことはありませんでした。

「右兵衛」は左右「兵衛府」の一つで、左右「近衛府」左右「衛門府」を含め『六衛府』(別名「つわもののとねりのつかさ」)を構成します。役人の多くは「国造」「郡司」など地方豪族の子弟から選ばれました。